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しろの小説(短編)
【土銀】雨【シリアス】※第300.5訓

『人の一生は重き荷を負うて遠き道を往くがごとし』

「荷物ってんじゃねーが、誰でも両手に大事に何か抱えてるもんだ。
だが、かついでる時にゃ気づきゃしねー。
その重さに気づくのは全部手元からすべり落ちた時だ。
もうこんなもん持たねェと何度思ったかしれねェ。
なのに…またいつの間にか背負い込んでんだ。
いっそ捨てちまえば楽になれるんだろうが、
どーにもそーゆー気になれねー。
荷物がいねーと歩いてても、あんま面白くなくなっちまったからよォ」

――テメーの手が届くもんは何があっても護りたいと思った。

『てめーにゃ誰かを護るなんてできっこねーんだ。
目の前の敵を斬って斬って斬りまくって、それで何が残った?
てめーは無力だ。もう全部捨てて楽になっちまえよ…
お前に護れるものなんて何もねーんだよ!!』

――なのに俺はまた護れねぇのか?テメーが一番護りてぇもんを…

「他人におびえ、自分を護るだけにふるう剣なんてもう捨てちゃいなさい。
敵を斬るためではない。弱気心を斬るために。
己を護るのではない、己の魂を護るために――」





はっと目を覚まし、がばっと起き上がると痛みが電流のように体のあちこちを走る。

「っ……」

「目が覚めたか」

一瞬痛みに気をとられた銀時が顔を上げるとそこには瞳孔全開のよく見慣れた男が心なしか少しホッとしたような顔でこちらを見ていた。

「土方…」

「軽い怪我じゃねぇんだ、無理すんな。待ってろ、あいつら呼んでくる」

そう言って土方は立ち上がり、戸の前まで行くと足を止めたが、それはほんの一瞬のことで、すぐまた歩き出し部屋を後にした。
最低限のものしか置かれてない見慣れない部屋と消毒液のにおい、自分に施された怪我の手当ても手慣れている。ここは病院…か。
あたりを見渡し、その答えに辿り着くと銀時はしばらくの沈黙のあと一言呟いた。
誰に聞こえるでもないほどに小さい声で。




「銀ちゃんっ!!大丈夫アルか!?心配かけるのも――」

「そうですよっ、一体何が……」

飛ぶように急いで病室へ向かった新八と神楽の後ろからようやく追い付いた土方は、少し騒がしいぞと言おうとも思ったが、二人が途中で言葉を失ったのに気付く。

「どうしたんだ?………銀時?」

土方が部屋を覗くとそこに銀時の姿はなかった―――





「………………」

体に走る痛みにかまわず病室を後にした銀時はお登勢が倒れていた場所で立ち尽くしていた。
雨の中、傘も差さずに。
血の跡は雨に流されほとんど残ってはいなかったが、周りの砕けた墓石と銀時の木刀が、あの悪夢のような光景を思い出させる。

――アンタのバーさん、老い先短い命だろーがこの先は アンタの代わりに俺が護ってやるよ――

「すまねぇ、アンタのバーさん護りきれなくて――」

拳を握り、唇を噛み締める銀時の後ろから声が聞こえた。

「銀時!!何やってんだテメーはっ!!」

怒鳴りながらこちらへと歩いてくる土方を銀時は振り返りちらりと見たが再び墓の方を向くと静かに口を開いた。

「……あ〜、土方くん?ちょっとばかり雨に打たれたくなっちゃってさー。人間誰しもそーゆー時ってあるだろ?……ごめん、しばらく一人にしてくんない?」

「『してくんない?』って…、お前……」

土砂降りの中、ずぶ濡れのままずっとこんな所につっ立ってたら風邪引くだろうがと土方は銀時の腕をつかみ、そして気付いてしまった。
その腕が、体が震えていることに。
怒りでもなく、勿論雨に濡れた寒さのせいでもない。
普段誰にも、付き合っている土方にさえも自分の弱い部分なんて見せたことがなかった銀時が悲しみに震えていた。

「俺は大丈夫だから…」

雨音にかき消されてしまいそうな声で土方に、そして自分自身に言い聞かせるように呟く銀時を土方はグイと振り向かせると、雨ですっかり冷え切ってしまっているその身体を強く強く抱きしめた。

「あぁ」

一瞬驚いたように目を見開いた銀時が、いつの間にか土方も傘を差していないことに気付きよく見ると、土方が今さっきまで手に持っていたはずの傘が転がっていた。

「…………傘」

「あー…、どうやら壊れちまったみてぇでな。ま、ちょうど俺も雨に濡れてみたい気分とやらになってたからちょうどいいさ」

「ぷ、なんだそれ。風邪引いても知らねぇぞ」

「てめーが言うか。頭も服もずぶ濡れでぐちゃぐちゃじゃねぇか」

濡れていつものふわふわなうねりや勢いを失った銀時の髪を触りながら土方は相変わらず減らず口な恋人に反論する。

「これじゃお前の顔もよく見えねぇな」

「水も滴るいい男だろ」

「言ってろ」

「はは」

「…銀時」

「何?」

「無理すんなよ」

その言葉に銀時は再び黙りこみ、土方の肩に顔を埋めると声を押し殺しむせび泣いた。


降りしきる雨は銀時の涙を知ってか知らずか。
空は泣き止む事を忘れたかのようにずっと降り続いていた――


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あきゅろす。
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