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東京の兎と浪速の虎
第8R 「全日本新人王決勝」
〜愛癒兎 Sido 9〜

あれから2日後、ついに全日本新人王決勝戦当日になった。

〜控室〜

青木「東軍の赤いトランクスか、あれを見ると全日本って実感するな。」

木村「オレら履けずじまいだったよな。」

鷹村「なんだって?君たちあのトランクスを履いていないのかい、それは残念だったねぇ。」

木村「知ってるくせに。」

あのトランクスを履いたことがないという2人に、鷹村は嫌味を込めて聞き返した。
だが、そんなことよりも一歩だ、結局一歩の拳の痛みはひかなかった、これでは全力を出せない。

コンコン

山口「やっほー。」

そのとき、山口先生が入ってきた。

一歩「や、山口先生!どうして・・・!」

山口「やーね、私は一歩君の主治医よ、ね?会長さん。」

一歩「会長が呼んでくださったんですか?」

鴨川「・・・・。」

会長は少し照れる。

木村「あれが一歩の接骨院の先生ッスか!?」

鷹村「な?言った通りだろ!」

青木「これはすごい!」

木村「お前、普通に戻ったのか?」

青木「とりあえず、あの胸は。」

木村「それなら納得。」

うちのスケベ軍団共が、山口先生の登場に鼻の下を伸ばす。

山口「腫れはひいてるけど、痛みはかなり残ってるようね、試合まであと30分くらい?」

問いかけにウチが頷いた。

山口「あまりやりたくはなかったんだけど・・・・。」

そう言って取り出したのは注射器。

山口「麻酔を打つしかないわね。」

一歩「はじめから聞かされてたことですから、覚悟はできています。」

そして、先生は注射を打つ準備をする。

山口「でもね、断っておくけど、麻酔といっても万能じゃないのよ、試合中同じ所を骨折なんかしたら、その痛みまではフォローできないわ。」

それに、麻酔が切れたとき、それまで潜んでいた痛みが一気に襲ってくるはずだ、だが一歩は。

一歩「えぇ、それでも、お願いします!」

山口「わかったわ。」

そのあと、なかなか力が抜けない一歩に、先生は女医ならではの隠し技を使い、麻酔を打ち終わった。

〜千堂 Sido 5〜

試合前、ワイは控室でずっと体を動かしていた。

柳岡「幕之内の奴、スパーで石野さんとこの小森にダウンもろーたそうや、拳の怪我が治ってへんのかもしれんが、本調子でないことはたしかやな。」

千堂「そんなん当てになるかい、あいつは本番に強いタイプや、ナメとったらえらい目に合うわ。
しゃあけど勝つんわワイや、ナメとるわけやあらへん、けどそう思えてならんのや。
こんな体の調子がええんは初めてや、体の芯からエネルギーが込み上げて来よる!じっとしてられへん、早いとこなにかぶっ叩かんと、爆発しそうや!」

そう言って、ずっと鏡の前で拳を突き出している。

柳岡「そーいや千堂、お前が言っとった彼女、来とんのか?」

千堂「愛癒兎か、あいつは絶対来とるで、鴨川ジムのトレーナーやからな。」

柳岡「なら、ええとこ見せんとな。」

千堂「あぁ!」

“愛癒兎、見とってくれ!ワイが活躍するとこ、その目で見とってくれ!”

〜愛癒兎 Sido 10〜

「一歩、そろそろだよ。」

一歩「・・・・はい!」

その顔は、とても普段の弱気な一歩とは思えない、立派なボクサーの表情だった。

〜会場〜

試合前のリングは、いつ見ても魔物が潜んでいそうな雰囲気を醸し出している。

「・・・・・。」

木村「どうした愛癒兎、黙り込んで。」

「ううん、なんでもない。」

ウチは2日前のことを、今も悩んでいる、なぜ、千堂にウチが好きかだなんて聞いたのだろうか?あんな質問、相手を困らせるだけだ、それに変な気を持たせてしまう、誤解も生じるだろう。
だがあの質問は、ウチがなにも考えず、ふと出てしまった心の本音。
“ウチは、いったい千堂のこと、どう思ってるんだろう。”

鷹村「おい、試合はじまるぜ。」

試合がはじまるので、ウチの考えはいったん中断させた。

アナ「ただ今より、フェザー級の試合を開始します!」

その声と同時に・・・。

ドン!ドン!

一同「「千堂!千堂!」」

会場に和太鼓と千堂の声援が響き渡った。
“和太鼓を持ち出すのか、さすが大阪。”
地元のすごい声援に圧倒されていると。

ウワアアアッ!!!

青コーナーから千堂が登場した。

千堂「・・・・・。」

凄まじい声援の中を、千堂はさっそうと歩いて行く。

「・・・・・!」

“あれ?千堂って、あんなカッコよかったっけ?”
リングに進んで行く千堂を見て、ウチはその姿に見惚れてしまった。

山口「あ!一歩君!」

山口先生に言われ、ウチはハッと意識を取り戻し、一歩の方を見た。

一同「「千堂!千堂!千堂!」」

なかなか千堂コールはおさまらない、だが一歩は、それに負けないほど、いい面構えをしていた。

アナ「赤コーナー!鴨川所属、幕之内一歩!」

紹介されると、一歩は会場に頭を下げて丁寧にお辞儀した。

アナ「青コーナー、なにわ拳闘会所属、千堂武士!」

ビシッ!

観客の声援に、千堂は応えるように拳を高々と掲げた。
“麻酔のせいで、他の感覚まで鈍ってなけりゃいいけど。”
一歩はハンデを抱えながらの試合になるが、千堂は手加減しないだろう。

ゴンッ!!

ついに、試合開始のゴングが鳴った。
一歩はゴングと同時に飛び出すかと思えば、青コーナーから歩いて近付く千堂を前に、固まってしまった。

青木「どうしたんだ!?ゴング&ダッシュの鷹村作戦じゃなかったのか!?」

青木が混乱する中、リングでは千堂がゆっくり一歩に近付き、射程距離内に入ると、左ジャブを繰り出した。
それは、一歩の固いガードを弾き飛ばす威力はあった。

青木「どうした一歩!?」

木村「会場の雰囲気に呑まれてんのか!?」

「・・・会場じゃないよ。」

おそらく、目の前のたったひとりの男にだ。
“ゴングと同時に、相手をひれ伏せさせるプレッシャーをまき散らしたんだ!”

「やっぱり、千堂は強い・・・・!」

そして、千堂のプレッシャーに押された一歩は、ロープに追い込まれてしまった。

「・・・!」

ガッ!ドカ!ボコッ

千堂の攻撃がはじまった、容赦なく拳が左右と一歩に襲いかかる、最終的には、一歩のガードごと吹き飛ばした。

「よし!いけ千ど・・・・!」

思わず声援を送ろうとしたのを、慌てて口を閉じる。
“なにやってんだウチは!千堂は敵なのに!”

「・・・がんばれ!一歩!」

すると、一歩はなにか考え付いたのか、千堂の目の前に出た。

青木「危な過ぎる!」

鷹村「腹決めたな、使う気だぜ、右!」

「・・・・!」

一歩は千堂の攻撃を受けつつ、左ジャブで調子を整えていった、そしてついに、右拳を繰り出した、だが。

千堂「!」

ガツン!

それをさせまいと、千堂が弾く、しばらく2人の打ち合いが続いた。

実況「たたみかけます!千堂の連打だ!」

千堂のボディが決まり、一歩の体がリングに沈んだ。

一歩「・・・・・!」

かと思ったが。

一歩「うおおおお!!」

ドガン!

一歩が沈んだ体制から、ついに右を繰り出し、千堂はもろに食らった。

「千堂ッ・・・・・!」

ウチは服の裾を握りしめていた。

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あきゅろす。
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