東京の兎と浪速の虎
第7R 「兎と虎 大阪で再び 2」
〜千堂 Sido 4〜
たまたま通り過ぎようとしたら、近くの姉ちゃんが転びそうになったから抱きとめると、なんとそれは宮田の姉の愛癒兎だった。
今日は革ジャンにジーンズというボーイッシュな格好だが、髪をおろしていて多少メイクをしているから女に見える。
聞いてみると彼女は暇だという、それを知ったら、勝手にデートに誘っていた。
千堂「ワイが大阪案内したるさかい、どや?」
「ウチも1人で寂しいと思ってたところだし、お願いしようかな?」
千堂「よっしゃあ!」
かくして、ワイと愛癒兎の初デートがスタートした。
最初は商店街をぐるりと回った。
「東京とはまた違う街並みだね。」
千堂「あたりまえや、東京よりもこっちの方が真が強い、活気で勝負したら負けへんで。」
「誰も勝負しろとは言ってないだろ。」
すると、愛癒兎の視線はある店で止まった。
千堂「ん?どないした?」
「たこ焼き、おいしそーだなって。」
千堂「なら、行こか。」
ワイらはたこ焼き店に足を運んだ。
千堂「おっちゃん!たこ焼き1パック!」
男「なんやロッキー、そないなべっぴんさん連れて、デートかいな。」
千堂「知り合いのボクシングジムのトレーナーやねん、そこでナンパしてもーたわ。」
男「ほんでデートかいな。」
千堂「せや。」
「なッ・・・・!」
愛癒兎はこの大阪のノリについていけていないようだった。
男「ロッキーもやるやないかい、こんなかわええ子捕まえて。」
千堂「ワイら、仲ええんやで?」
そう言って肩に手を回す。
「え、あの・・・/////」
それに愛癒兎は顔を赤くした。
男「ほれ、ロッキーの彼女さん。」
「あ、どうも・・・。」
戸惑いながら、たこ焼きを受け取った。
千堂「ほな、デート行ってくるわ。」
そしてまた商店街を歩いた。
「ちょっ、千堂・・・・。」
千堂「なんや?」
「いや、肩・・・・・。」
やはり、肩に手を回したのは、少し気にしているらしい。
千堂「しばらくこのままでいさせてーな。」
「でも、周りに誤解させちゃうよ?」
千堂「その方が都合がええ、今のアンタほっといたらナンパされてまうわ、そーなると面倒やろ。」
たしかにそれもあるが、理由はそれだけじゃない。
“前回、あれだけ人の気も知らんで意識させよって、お返しじゃ。”
あえてスキンシップをすることで、愛癒兎が前回のワイのようにドキドキしていれば、この作戦は成功になる。
千堂「次はどこ行くんや?」
「少し歩いて見たいな、たこ焼き食べてるし。」
千堂「ほな、そうしよか。」
そして、商店街を歩くことによって、ワイの作戦は絶大な効果を発揮した。
男「ロッキー、彼女とデートかいな!」
男「なに!ロッキーに彼女やて!?」
商店街はワイの庭、皆顔見知りだ、だから街を歩けば皆ワイらの様子を見ていた。
千堂「大阪はじめてや言うから、今そこでナンパして案内してるとこや!」
男「ロッキーがナンパかいな!」
男「彼女さんべっぴんやな!」
千堂「せやろ!」
皆、愛癒兎のことを見て可愛いと称した、正直ワイも可愛いと思う、そのせいか、愛癒兎が可愛いと褒められると、ワイ自身もうれしかった、まるで彼女が褒められたように。
千堂「たこ焼き、美味いか?」
「あ、うん。」
千堂「・・・ちょい貸してみ。」
ワイは愛癒兎からたこ焼きを受け取ると。
千堂「ふー、ふー、ほれ。」
つまようじにたこ焼きを刺して、軽く息を吹きかけて熱を冷ましてから、愛癒兎に向けた。
「え?」
千堂「お口あーんせな、食べさせたる。」
「へ!?/////」
まさかやるとは思わなかったのだろう、顔が真っ赤になっていた。
「え、いや、でも・・・。」
千堂「ほれ、あーん。」
ワイが口元まで持っていくと、諦めたのか、愛癒兎は口を開けた。
「あー・・・・(もぐもぐ)」
千堂「どや?」
「うん、おいしい。」
千堂「やろ?」
愛癒兎は口を動かしながらも、頬の赤みはひかない。
“かわええなぁ。”
心の底からそう思った。
「たこ焼きも食べ終わったし、他のところ回ろっか。」
千堂「ええで。」
そのあと、大阪のいろいろな名所を回り、時間も夕方になっていた。
千堂「いつの間にか夕方になってしもーたな。」
「そうだね、そろそろ帰らな・・・・ッ!」
突然、愛癒兎が顔を歪めた。
千堂「どないした!?」
「足首、ちょっと・・・・・。」
ジーンズの裾を上げてみると、右足首が少し腫れていた。
千堂「アンタ、あんときに足ひねって痛かったんちゃうか?」
「少し痛かったけど、そんなでもないから平気かなって。」
千堂「どアホ!それでもトレーナーかい!」
まったく、ボクサーへの体調管理やら食生活やらはしっかりしているくせに、自分のこととなるとこれとは。
千堂「しゃあないな、ほれ。」
ワイは愛癒兎の前にかがんだ。
「・・・・なに?」
千堂「なにって、おんぶや、おぶったるさかい。」
「で、でも・・・・。」
なぜか愛癒兎は口をどもらせる。
千堂「はよ乗りや。」
「いや、さすがにおんぶは・・・恥ずかしい・・・。」
千堂「んなこと言うてる場合か!足ひねってるんやぞ!」
「けど・・・・。」
なかなかおぶさろうとしない愛癒兎にワイは痺れを切らせ、ついに行動に出た。
千堂「おんぶが恥ずかしい言うんなら・・・。」
ヒョイッ
「!?/////」
千堂「これでええやろ。」
ワイはおんぶをやめて、愛癒兎をお姫様抱っこに抱えた。
「よくない!こっちの方が恥ずかしい!/////」
千堂「暴れんなや!落とすど!」
「暴れるわ!抱えられてるこっちはちょー恥ずかしいんだからな!/////」
千堂「なら、お姫様抱っこかおんぶか、どっちか選びや。」
「ぐぅ・・・・・!」
究極の選択肢をやると、愛癒兎は小さな声で“おんぶ”と言った。
ワイは要望に応えるため、一度愛癒兎をおろし、背中に抱えなおした。
千堂「んで、お姫様はどこ行くんや?」
「今お世話になってるジムの近くにホテルがあるから、そこまで。」
千堂「了解や。」
ワイは愛癒兎をおぶさりながら、ゆっくりと歩き出した、だが、背中におぶさってる愛癒兎は、手の置きどころに困っているようだった。
千堂「ちゃんと捕まりや、不安定やと落ちるで。」
「・・・うん・・・。」
ぎゅ・・・・
愛癒兎はうしろから腕を回した、それはまるで、背中越しに愛癒兎から抱きしめられているようで、とても心地よかった。
“ワイ、こんなふうに心が安らいだこと、はじめてやねん。”
もしかして、これは愛癒兎だから安心しているのではないだろうか。
“なんやねん、この気持ち。”
「・・・・・なぁ。」
そのとき、愛癒兎が話しかけてきた。
千堂「なんや?」
「千堂は・・・ウチのこと、好き?」
千堂「!!(ドキッ)い、いきなりなんやねん?」
「・・・・・。」
いきなり好きかどうか聞かれて、ワイは内心驚いている。
千堂「・・・・好きやで、アンタのこと。」
本心のまま伝えると、肩越しに愛癒兎は笑った。
「・・・・そっか。」
千堂「急にどないしたん?そないな質問して。」
「・・・・ウチはね、いつも皆とは別の世界の住人だから、図々しく世話焼くの、迷惑なんじゃって思ってる。」
千堂「なんでなん?」
「所詮ウチは女の子、男でありボクサーである皆の世界には入れない、だけどそんなウチは、外側から皆の世話を焼く。
これってさ、皆からすれば嫌なんじゃないかな。」
千堂「そないなこと・・・!」
そこまで言いかけたが、愛癒兎によって途切れてしまった。
「あ、ここなんだ、ホテル。」
話しているうちに、いつの間にか目的のホテルに到着していた。
「ここからは歩ける、大丈夫だよ。」
そう言われて、ワイは愛癒兎をおろした。
「送ってくれてありがとう。」
千堂「・・・・・。」
「千堂?」
もう目的は達成したはずなのに、まだなにかやり残している気がして仕方がなかった。
“やっぱ、本心を伝えなアカン!”
千堂「さっきのこと、アンタはそう思ってるかもしれんけど、周りの連中はちゃうと思うで?皆、アンタのサポートに助けられとる、アンタに感謝しとるんや。
女に産まれたんはしゃあない、けど、アンタも立派なボクシング界の住人や、仲間はずれやない。」
「千堂・・・・・・。」
千堂「それに、たとえ周りがアンタを置いて行こうと、ワイは絶対アンタのそばにおる、ずっとアンタと一緒に歩いてく。
やから、そんな寂しそうな顔せんといてーな。」
ワイはそんな出来のよくない頭で必死に言葉を選んで、思っていることをすべて伝えた、すると愛癒兎は・・・。」
「ありがとう、千堂。」
笑っていた、心の底から笑っていた、とても綺麗な笑顔で。
千堂「せやから、そんな思い詰めるんやないで?」
「わかった。」
「ええ子や。」
ワイはそう言って、愛癒兎の柔らかい髪を撫でた。
千堂「ほな、ワイはもう用ないねん、帰るわ。」
「あ、千堂!」
引き返そうとしたら、愛癒兎に手を掴まれた。
千堂「な、なんや?」
「・・・・Grazie。(ありがとう)」
そう言い残して手を離し、ホテルへ入って行った。
千堂「・・・・・・。」
“最後のあれ、イタリア語やったな。”
間違っていなければ、愛癒兎は最後、イタリア語でありがとうと言った。
千堂「日本語で言わんかい。」
ホテルに向かってそう呟き、ワイは歩いてきた道を戻った。
コツ、コツ
もうすぐ日が沈もうとしている帰り道、ワイはあることに悩んでいた。
“最後に手を掴まれたあのとき、あいつを背中に背負っとるとき、ワイの中で渦巻いてたなにかはなんや?”
愛癒兎と体が触れるたび、ワイの心はうれしさで跳ね上がった、ワイも男だ、可愛い女に触れられたらうれしい、だが愛癒兎は特別だった、愛癒兎と体が触れている瞬間、ずっと続いていてほしいと思った。
千堂「好きやで、か。」
背中越しに伝わる愛癒兎の悲しみを、少しでも取ろうとして思わず出た言葉だったが、おそらく“好きだ”と思わず声が出たのは、ワイが心の底から愛癒兎をそう思っているからではないだろうか。
千堂「宮田愛癒兎・・・。」
好き・好意・愛情・愛してる、好きを表すものはたくさんある、友達としての好き、憧れとしての好き、片思いとしての好き、おそらくワイは・・・・。
千堂「・・・・・・・愛しとる。」
ポツリとこぼれた言葉、これが本音だ。
ワイが愛癒兎をどう思っているかと答えが出たら、なんだか急に心が軽くなり、今まで以上の試合へのやる気も湧いてきた。
千堂「おっしゃあ!やったるで!」
帰りはジムまでダッシュで帰った。
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