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東京の兎と浪速の虎
第4R 「虎と兎の一夜 2」
〜愛癒兎 Sido 5〜

朝目が覚めると、まだ千堂は目を閉じていた。
“可愛い寝顔。”
まだ彼は未成年、少年の幼さが残っている、普段は鋭い眼光を放つ目も、こうして閉じられていると柔らかい表情に見える。

「ほんと、まんまやんちゃ坊主の顔じゃん。」

癖っ毛の髪を優しく撫でていると。

千堂「・・・・・ん・・・?」

千堂が目を覚ました。

「おはよう、千堂。」

千堂「お、おはようさん・・・・/////」

なぜか千堂は目を逸らし、顔を赤くしていた。

「どうした?案の定風邪でもひいたか?」

ピト

ウチは千堂の額に自分の手をくっつけた。

千堂「ワ、ワイは元気やねん!気にすな!」

千堂はベッドから飛び起き、バタバタと騒いだ。

「そんだけ騒げれば十分、ごはん食べよっか。」

完全に体を起こし、着替えてからウチは1階のキッチンへ向かった。

「千堂、帰りの電車賃ないんだから、ジムで動いていきなよ。」

千堂「ええんか?」

「ウチはジムの掃除があるから見てやれないけど、器具はたくさんあるから、好きなだけトレーニングしていきな。」

2人で朝食を終えたあと、ウチらは鴨川ジムへ向かった。

〜鴨川ジム〜

ウチは会長室の掃除を終えて、1階のフロアに戻ったら、なぜかリングに鷹村と千堂があがっていた。

「鷹村はわかるけど、なんで相手が千堂なの?青木は?」

青木「オレはまだ死にたくねーんだよ。」

木村「青木がぐずってたら、千堂がやりたいって申し出たんだ。」

「千堂はフェザー級、鷹村と何階級差があると思ってんだ。」

“でも、おもしろそうだから見とこっかな。”

青木「ったく、どーなっても知らんぞ。」

ゴンッ

そして、甲斐氏のゴングが鳴った、最初はどちらも相手の様子見だ。

一歩「あれ、珍しいですね、鷹村さんがガッチリファイティングポーズとるなんて。」

木村「だからよ、勉強させてやるつもりなんだよ。」

一歩「あぁ。」

“本当にそうならいいけど。”
少し様子見したあと、千堂が先に出た、だが鷹村に一発あびた。

木村「さすが。」

だがやられっぱなしの千堂じゃない、奴は鷹村の射程距離を把握すると前に出た。

鷹村「♪〜」

鷹村はそれを余裕でかわす。

木村「鷹村さん相手じゃ当たらねーのも無理ねぇが、キビキビしたいい動きだぜ。」

「そうだな。」

青木「おいおい、千堂の奴熱くなってねーか?」

木村「心配すんなって、もともとレベルが違うんだから。」

“攻撃を上体でかわし、相手の引き手に踏み込み打つ、ロックアウェイ。”
鷹村はカウンターに合わせ、さらにカウンターを合わせるクリスクロスも繰り出す。

青木「うへー、高騰技術のオンパレードだぜ、まさに勉強ってわけね。」

千堂が攻めあぐねていたそのとき。

シュッ

「あ・・・・・・!」

千堂の肘が鷹村の鼻をかすめた。

鷹村「おい肘だぞ、気を付けろ。」

鷹村は千堂に注意する、すると。

ボソ・・・・

千堂「わざとや。」

「!」

小さかったが、たしかに聞こえた。

鷹村「!(ブチッ)」

それに対し、おそらく鷹村はキレたのだろう、吹っ切れたように本気で攻撃しはじめた。

木村「なんだ!?」

青木「急に怒り出したぞ!?」

鷹村は突然、千堂をタコ殴りにしはじめた。

ドカ!ボコ!

一歩「マズイですよ!止めましょう!」

殴られている千堂は、熱くなってやり返す。

木村「よせ千堂!どうせ当たらねーよ!」

ありきたりなパンチで当たるほど、鷹村は優しくない、これ以上やるのは危険だ。
そのとき、千堂がパンチを繰り出そうとしていた。

一歩「フック!?いや、アッパーか!?」

“あんな中途半端な構えじゃ・・・・!”
だが、ひとつだけ思い当たるパンチがある。

「まさか・・・・・!」

千堂「うおらぁぁぁぁぁっ!!」

ガッ!!

「スマッシュ!」

千堂のスマッシュは、鷹村の顔に綺麗に決まった。

木村「鷹村さんの体が・・・・!」

青木「ずれた!」

「味なパンチだが・・・・あいつ、死ぬぞ。」

案の定。

鷹村「クソがぁ!!」

ドガン!!

鷹村が思いっきり千堂を殴り飛ばした、殴られた奴の体は宙を舞って、リングに落ちるかと思った。

「千堂ッ!」

バッ

ウチはとっさにリングに飛び込み、ギリギリのところをスライディングで奴を受け止めた。

木村「おい千堂!」

一歩「千堂さん!」

木村たちも、少し遅れてから駆け寄った。

鷹村「おーいて、スマッシュ持ってんだったら先に言えってんだ、ビックリして一発もらっちまったじゃねーか。」

殴った本人はまったく気にしていない。

青木「無茶しないでくださいって言ったじゃないッスか!」

鷹村「そいつが悪いんだぞ、本気のどつき合いじゃねーと土産話にならねーってぬかしやがったんだよ。」

「!」

肘を当てたあと、少し口が動いていたからなにか言ったのだろうと思っていたが、まさか鷹村相手にそんなことを言っていたとは。

木村「はぁ、勇気があるっていうか無謀ってゆーか、なんにせよ、鷹村さんを本気にさせるとは大したモンだぜ。」

「そんなことより、誰か水とタオル持ってこい。」

一歩「あ、ボクが!」

一歩が用意している間、ウチは千堂の頭を膝に乗せていた。
“本気のどつき合いか、千堂には、階級が違うとかレベルが違うとか関係ないんだ。”
強い奴と戦いたい、それだけなのだろう。

「本当に、ボクシングが好きなんだろうな。」

そのとき、一歩がやっときた。

一歩「お待たせしました!」

「そこに置いて。」

一歩に用意してもらったタオルを、バケツの水に浸し、軽くしぼってから千堂の目元に乗せた。

「まったく、無茶しやがって。」

膝に乗せている頭の重さからして、完全に意識を失っている。
“鷹村の奴、また成長したな。”
鷹村の最初の頃を知っているからこそ、ここまで成長したことはとてもうれしい、だが試合を控えている千堂を気絶させてしまったことは、とても心配だ。

鷹村「ちっ、よそ者のくせに愛癒兎の膝枕かよ、生意気な。」

「お前が気絶させなきゃ、こうはならなかったよ。」

鷹村「んじゃ、気絶したのがオレ様だったら?」

「シカト。」

鷹村「けっ、なんだよ。」

鷹村にはそう言ったが、おそらくウチは飛び込んでいただろう。
“素直に言ったら、つけあがるからな。”
心の中でボヤきつつ、タオルをまた置き直した。

〜・〜・〜・〜

あれから数分後、千堂は目を覚ました、そうしたら帰りの電車賃はどうにいかなったらしいので、このまま大阪に帰ると言い出した。
なので、ウチと一歩は千堂の見送りに来ていた。

「ずいぶん買い込んだな。」

千堂「突然飛び出したさかい、土産でも持って帰ってトレーナーの機嫌とらんと。」

トゥルルル

発車のベルが鳴り響く。

「東京に来ることがあったらまた寄んな、ウチが鍛え直してやるよ。」

千堂「おおきに。」

電車に乗り込もうとしたそのとき、また振り返ってこちらを見た。

「?」

千堂はなかなか乗り込もうとしない、それをウチらは不思議に思った。

千堂「!」

ドサ

奴は土産を落とすと、勢いよくこちらを振り返った。

「千堂?」

千堂「・・・・・・・!」

一歩「?」

ずっと黙っていたかと思えば。

千堂「大阪で待っとる!」

そう宣言すると、新幹線の扉は閉まり、奴は大阪へ帰って行った。

一歩「千堂さん・・・・。」

「クス、大阪で待ってるか、全日本新人王戦は東西の持ち割り、今年は西、大阪府立体育館だったはず。
あいつ、試合のこと諦めていないみたいだよ。」

一歩「ボクだって・・・・。」

一歩は拳を握りしめて、自分だって千堂とやりたい、という顔をしていた。

一歩「・・・・・・あ。」

「ん?」

〜千堂 Sido 3〜

新幹線の中で、ワイはずっと考えていた。
“さすがに強いわ鷹村さんは、スマッシュは一撃必殺のつもりで磨いとったのに、あれは振り切るタイプのパンチやから、一発で倒されへんかったら帰り討ちに合うてまう。”
大阪に着いたら、すぐにでも調整しなければならない。

千堂「ハァ、ホンマええ土産もろーたで。」

そのとき、ふと思い出した。

千堂「あ、み、土産・・・・・!」

〜愛癒兎 Sido 6〜

ウチらが千堂が去ってから言葉を失った理由。

「土産、置きっぱじゃん・・・。」

“やっぱ、バカなんだ。”
また、ウチの中で千堂の好感度が上がった。

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