東京の兎と浪速の虎
第3R 「虎と兎の一夜」
〜愛癒兎 Sido 3〜
あれから少し歩いて、すぐ家に到着した。
「さ、入って入って。」
千堂「ほな、お邪魔します。」
家にあがるとき、ちゃんと靴を揃えたのが意外だったとは、あえて言わないでおこう。
「先にごはん食べる?」
千堂「自炊かいな。」
「あたりまえ、一人暮らしなんだから。」
ウチはリビングに千堂を待たせ、2階の寝室でジャージから私服へ着替えた。
「お待たせ、今から作るから。」
下りてきてキッチンに立ち、エプロンを着けた。
千堂「なんや、そーやっとるとホンマに女やな。」
「失礼なこと言ってるとごはん食べさせないよ。」
冗談を言いながら夕飯を作る、今日は豆腐とワカメの味噌汁に、刻み野菜のドレッシングサラダ、それとししゃものフライだ。
千堂「ばあちゃんの以外は久しぶりやで。」
「いつもはおばあさんが?」
千堂「せや、ワイばあちゃんと2人やねん、たまにワイも手伝うけどな。」
「へぇ。」
そのあと、しばらく会話しながら作っていたら、あっという間にできあがってしまった。
千堂「いっただきまーす!」
千堂は大きな口を開けて、フライにかぶりついた。
千堂「ウマッ!!」
目を輝かせて口を動かしていた。
「それはよかった。」
久しぶりに他の誰かと一緒に食事をした、やっぱり自分だけじゃなく、誰かのために作る食事は美味しくできあがるものだ。
そのあと千堂はあっという間に完食し、あとは暇になった。
千堂「ホンマごちそうさん、メッチャ美味かったで。」
「そこまで言ってもらえるとうれしいな、作った甲斐があった。」
食器を片付けながら、ウチは頬をほころばせる。
「そうだ、ジムでシャワーを浴びただけじゃサッパリしないだろ?お風呂入っちゃいなよ。」
千堂「ええんか?そこまでしてもろーて。」
「泊まってくんでしょ?客人にはおもてなししないとね。」
千堂はうれしそうに風呂場へ向かった、その間にパパッと洗いものを済ませ、タオルと着替えも用意した。
そしてウチは、千堂が風呂に入っている間に、ネットで千堂の記事を探した。
「すごいな、デビュー仕立ての頃から騒がれてたのか、べた足のインファイター、6戦6勝6KO、一歩と同じ戦績か。」
そのとき、気になる文面を見つけた。
「ディフェンスの甘いところもあるが、それを補って張り合える破壊力、フェザー級屈指のハードパンチャーである・・・!」
“同じだ、戦績だけじゃなく、戦い方も勝ち方も。
記事の褒め言葉も、一歩が載ったときとよく似ている。”
もしかすると、一歩とまったく同じタイプのボクサーかもしれない。
「もし、一歩と千堂が戦ったらどうなる・・・・。」
千堂「なんや、ワイの記事見てんかい。」
「うわッ!」
いきなりうしろから覗き込まれてビックリした。
「あ、風呂あがったのか。」
千堂「気持ちよかったで、おおきに。」
「それじゃ、ウチもお風呂入ってくるよ、暇だったらそこにある雑誌とか読んでていいよ。」
ウチもタオルと着替えを持って風呂場へ向かった。
〜千堂 Sido〜
いきなり東京に来て、こんなに世話になるとは思わなかった、初対面の女の家に泊まるとは想定外だったが、いい奴なのだろう。
千堂「雑誌って、全部ボクシング雑誌やん。」
本棚に置いてあった雑誌は、すべてボクシング関連の雑誌だった、しかもいろいろなところに付箋が貼ってあり、中を見れば、マーカーペンの印だらけ。
千堂「研究熱心やなぁ。」
おそらく、彼女のトレーナーとしての腕は高いのだろう。
“ワイも負けてられへんわ。”
自分の中の闘志が、メラメラと炎を灯した。
そしてしばらくすると、彼女は風呂からあがってきた。
「あ、やっぱそれ見てたんだ。」
千堂「雑誌ある言うても、ボクシングばっかしやないか・・・!」
思わずそこで言葉が途切れてしまった、なぜなら、先ほどとは打って変わり、彼女がとても女らしかったからだ。
風呂あがりのせいか、蒸気で色白の頬は赤みをもち、髪はしっとりと濡れて、服は可愛らしいモコモコとした着ぐるみのようなパジャマ、そして全体的に色っぽい。
千堂「・・・・/////」
「ん?どうした?」
千堂「な、なんでもあらへん!」
思わず、急いで目を逸らす。
“アカン、さっきはジャージで髪とめてたから意識せえへんかったけど、今はめっさ女らしいやないかい!”
これは意識せざるを得ない、しかも極め付けには。
「千堂、髪乾かしてないじゃん、やってあげるからそこ座って。」
千堂「べ、べつに平気や!」
「髪乾かさないでいると、風邪ひくこともあるんだよ?ボクサーなんだから、自分の体調管理はしっかりしないと。」
千堂「う"・・・・。」
さすがトレーナーだ、言うことに重みがある。
「ほら、座って。」
ワイは仕方なく、髪を乾かしてもらうことにした。
なぜ自分でやらなかったか?それは、ちょっとやってもらいたい気持ちもあったからだ。
「よいしょ。」
そして彼女はドライヤーのスイッチをいれた。
ボワー・・・・
「熱くない?」
千堂「ちょうどええわ。」
乾かす際、彼女が優しく髪を触る、その感触がとても心地いいものだった。
“アカン、眠くなってきよった。”
眠気と戦っていたそのとき。
ムニ・・・
“この感触は・・・・!”
髪を乾かしてもらっているから仕方ないのか、背中には男なら誰でも憧れる“あの”感触が当たっていた。
“アカン!これはアカンで!”
ジムで胸を触らされたときにも思ったが、幼い見た目に合わず巨乳なのだ。
“ワイ、巨乳好きやねん、この状況どーすりゃええんじゃ!”
湧き上がる本能を抑え込み、ジンワリ熱を帯びてきた下半身にも気を遣いながら、必死に己と格闘していた。
〜愛癒兎 Sido 4〜
千堂が思わぬことで戦っているとは知らず、ウチは平然と髪を乾かしていた。
「にしても千堂、いくら暖房が効いてて風呂あがりだからって、上半身脱いでて寒くないの?」
千堂「汗かくほど浸かってたんや、これでええんや。」
「ならいいけど。」
だが、ウチにこの状況はありがたいかもしれない、なぜならウチは筋肉フェチだからだ、そのせいか、筋肉強化に関してはやたらと知識がある。
“背中だけ見ても、結構いい体つきしてるな。”
「千堂、お前いい筋肉の付け方してるじゃん、筋トレの仕方が合ってるんじゃない?」
千堂「ホンマか?」
「トレーナー目線から見ても、筋肉の付き加減がいい感じだよ。」
千堂「さよか、大阪帰ったらトレーナーに自慢せなな。」
そう話しながら、千堂の髪を乾かす。
“千堂の髪の毛って、ホワホワしてて柔らかいんだ。”
癖っ毛のある茶髪の髪は、まるで猫を思わせる。
「ハイ、終わり。」
千堂「おおきに。」
千堂の髪を乾かしたあとは、ウチも髪を乾かした。
千堂「ふわぁ〜・・・・。」
「千堂、眠いの?」
千堂「ここんところ、幕之内のビデオばっかり見てるさかい、あんまり寝てないんや。」
「ならもう寝れば?そしてらウチも寝るから。」
使い終わったドライヤーを片付ける。
千堂「ならそうさせてもらうわ、ワイどこで寝ればええ?」
「2階に寝室があるから、そこで寝なよ。」
千堂「アンタは?」
「ここのソファーで寝る。」
千堂「それはアカン!」
ソファーで寝ると言ったら、千堂は急に大声を出した。
「え、なんで?」
千堂「それはアカンで!ワイの、男のプライドが許さへん!」
「って言われても・・・・。」
どうすればいいものかと考えていたとき、ひとつ案が浮かんだ。
「そうだ、ウチのベッド大きいから、2人で寝ちゃえばいいよ。」
千堂「なんでそうなんねん!」
ビシッと関西本場のツッコミをされた。
「だって、ウチがソファーで寝るのはダメなんでしょ?それだったら残るはこれしかないじゃん。」
千堂「ワイがソファーで寝るプランは?」
「ボクサーの体調管理。」
千堂「せやった・・・・。」
千堂はしばらく考えていたが、腹を決めたか、首を縦に振った。
〜千堂 Sido 2〜
「んじゃ、おやすみ。」
千堂「おやすみ。」
結局、宮田姉のトレーナー魂に押し負け、一緒のベッドに寝ることになった。
“まぁ、背中向けてればそんな気にならんやろ。”
そう思い、ワイは反対側を向き眠りについた。
〜翌日〜
チュン、チュン
千堂「・・・・・・んあ?」
鳥のさえずりと、カーテンの隙間からこぼれる日の光に目を覚ました。
千堂「なんや、まだ6時かい。」
あともう少しは寝れると思い、二度寝しようかとまたベッドに横になったそのとき、ちょうど宮田姉の寝顔がドアップになった。
千堂「!/////」
あどけなさが残るその寝顔は、いくら宮田にそっくりでも女らしく、とても可愛らしかった。
“昨日の夜からやたらとドキドキさせよって、ワイをどうしたいんや。”
寝ている本人はスヤスヤと寝息をたてている。
千堂「・・・・このまま顔近付けたら、どうなるんやろな。」
ちょっとでも動いたらすぐキスしてしまえそうなほど近い距離で、ワイはジッとその寝顔を見つめる。
“全然、起きへんな。”
そう心の中で呟く、このまま近付いたら唇が触れてしまうと思いつつ、なぜか離れられない自分がいた。
“このままやとキスしてまう、それはアカンことや、せやけど・・・・。”
ここで引いたら、後悔するような気もしていた。
千堂「・・・・・ま、ええか。」
だからワイは後者を選び、そのまま顔を近付け。
・・・・・・・ちゅ
キスをした。
千堂「・・・・・・・・。」
予想以上にその唇は柔らかく、キスしたとき、ふんわりと甘い匂いが鼻をくすぐった。
千堂「して・・・しもーた・・・。」
“・・・・だぁーっ!!一緒に寝よう言うたこいつが悪いんや!男と女が寝る言うたら、こうなると相場は決まっとんねん!”
なかば、無理やり理由を押し付けて、ワイはもう1回ベッドにもぐった。
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