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東京の兎と浪速の虎
第2R 「浪速の虎 降臨」
〜愛癒兎 Sido 2〜

午前にいろいろと用事を済ませ、午後からジムに顔を出した。

「ちわー。」

木村「お、愛癒兎来たな。」

青木「なんだよ、今日はジャージかよ。」

「お前らに付き合うのに、よそ行きの恰好してられっか、こっちも汗かくし動き回るし、これでちょうどいいの。」

ウチは黒地に赤のラインが入ったジャージを着ている、今は冬だから暖かくていいし、動き回るのに最適だ。

木村「つーか、お前のその頭なんだよ、スズメのしっぽみてぇ。」

青木「ぎゃはは!ほんとだ!」

「どーとでも言いやがれ。」

普段はボブカットの髪をおろしているが、なにか作業するときにはひとつに束ねる、すると2人の言ったように、スズメのしっぽみたいになるのだ。

青木「そうやってるとお前男みてーだな、しかもイケメンの。」

木村「昨日はあんなに可愛かったのにな。」

「褒め言葉として受け取っておくよ。」

トレーニング器具のチェックをしながら聞き流す。

木村「にしても、お前ますます宮田とそっくりになってきたな。」

「そう?一郎は昔に比べたら男らしい顔になったけど。」

青木「お前ら2人はどっちも中性的な顔立ちだからな、顔だけ男装女装されたら信じちまうよ。」

「そんなに?」

以前、一郎の服を借りて外を歩いていたら、女の子に逆ナンされたことがあった、普通なら気付いてもらえるだろうが、あいにくウチは声も低い、なかなか気付いてもらえず苦労した。

「それなら、今のまんまで一歩と会ったら、向こうは一郎と思ってくれるかな?」

青木「お、それおもしろそうじゃねーか。」

木村「いっちょからかってやろうぜ。」

そんな軽い話をしていると、ジムのドアが開いた。
“一歩が来たかな?”
さっそく一郎の雰囲気をマネしようとしていたら。

ガチャ

千堂「幕之内はおるかー!!」

入って来たのは、関西弁の派手な服を着た、目付きの鋭い少年だった。

千堂「どこや!幕之内!」

木村「誰だ?いきなり・・・。」

「ウチに任せて。」

ウチは持っていたチェック表を木村に手渡し、その少年に近付いた。

「どちら様でしょうか?」

千堂「ん?坊主、ここの練習生かいな。」

「ぼッ・・・!」

青木・木村「「ぶっ。」」

この恰好を見て、ウチのことをこいつは男と判断したらしい、うしろで青木村が笑っている。

「練習生ではなくトレーナーです。」

千堂「年下かと思うたわ・・・・まぁ、それは置いといて、幕之内はどこにおんねん。」

「今日はまだ来ていません。」

上から目線の態度に少し腹が立ち、少しキツめに伝えた。

千堂「なら、幕之内が来るまでワイは待つ、ここから動かへんからな。」

そう言って、少年はイスにドカッと座り込んだ。

青木「おい、これどーすんだよ。」

青木がウチにコソッと耳打ちする。

「まぁ、ウチがどうにかするよ。」

ため息をつきつつも、ウチは少年の前に立った。

「ところで、あなたは一歩のお友達ですか?」

千堂「友達ちゃうで。」

「なら、用件はなんでしょうか?」

千堂「幕之内に会いに来たんや。」

「約束とかは・・・?」

千堂「ワイらはただの他人や、約束もなにもあらへん。」

“もう、なんなんだよこいつ。”
一歩も変な奴に目をつけられたものだ。

千堂「せや坊主、お前トレーナーなんやろ?幕之内の調子はどうなんや?」

「あなたは他人なんでしょう?身内以外が知る必要はありません。」

千堂「なんやその態度、ムカムカするわ、宮田一郎を思い出すで。」

「ウチは一郎の姉です。」

千堂「姉?そーか、せやからそんな似てるんか、・・・・・・って姉ぇ!?」

少年が目を見開いて、大声で騒いだ。

千堂「宮田に姉がおったんか!つーかお前、姉ぇ!?女やったんか!」

「性別上、ちゃんと女なんですが。」

イラつきながら、ウチが女であることを伝えると。

ずいっ

千堂「ホンマなんか?」

鼻先がくっつくほど顔を近付けて、ウチの顔を見つめた。

木村「お前、愛癒兎になにする気だ!」

青木「顔近過ぎだろ。」

「・・・・。」

互いの鼻先がくっつくほど近い距離だが、そんなことでウチは動じない、まっすぐ少年の鋭い目を見つめ返した。

千堂「・・・たしかに、言われてみれば女にも見えなくはないな、だがいまだに信じられへんわ。」

「事実です。」

千堂「ま、こんなちっこい男がおるわけあらへんな。」

「!」

なんだか、ものすごくバカにされた気がしたので、ウチから離れて上から見下ろす少年の手を掴み。

ムニィ・・・

千堂「!?/////」

自分の胸を触らせた。

「これでおわかり頂けますか?」

バッ

千堂「おまっ、なにすんねん!/////」

少年は顔を真っ赤にして、急いで手を引っ込めた。

「これでもまだおわかり頂けないのなら、下も確かめますか?」

千堂「も、もうええわ!/////」

そのとき、ウチと少年の間に木村が割って入った。

木村「愛癒兎!いくらなんでもやり過ぎだろ!」

「こいつがなかなか信じなかったんだ。」

木村「だからって、胸触らせるこたぁねーだろ!」

青木「木村も触ったことねーのにな。」

木村「うるせぇ!」

なぜ木村が顔を赤くしているのか、ウチにはわからなかった。

「木村も心配性だな、大丈夫だよ、んな減るモンでもねーし。」

木村「お前の純潔が減るだろーが!」

木村は本気で怒っている。

「?」

木村「あのなぁ、いくら間違われてもお前は女の子だろ?ちょっとしたことで変なことに巻き込まれたらどーすんだよ。」

「・・・クス、数年経っても、相変わらず過保護だなぁ、ウチはもう大人だよ?そこら辺は大丈夫だから、心配しないで。」

木村「ハァ・・・お前は、そうだよな。」

木村はため息をついた。

青木「愛癒兎、木村は過保護ってわけじゃねーんだぜ?」

「え、過保護じゃん。」

青木「やっぱ鈍いわ、お前。」

なにが?と言い返そうとしたそのとき。

千堂「なぁ、あんたら、ワイがおること忘れてへん?」

顔の赤みがひいた少年がこちらを見ていた。

「忘れてた、とりあえず、一歩に会いたいのならもう少し待っていてください、もうそろそろ来ると思いますから。」

そう言っていると、ドアが開いた。

一歩「どうも。」

一歩が気ダルそうに入ってきた。

木村「おう来たか、客が来てるぜ。」

一歩「え?」

木村「誰だよあれ、さっきからお前出せってやかましくってよ。」

木村は親指で、少年を指差した。

千堂「お、やっと現れよったか幕之内、待ちくたびれたで。」

一歩「あの、待たせちゃったみたいですみませんけど、どちら様で?」

千堂「なんやて?ワイが誰かわからんちゅーんか?」

一歩「はぁ。」

千堂「まぁええわ、自己紹介したる、ワイの名は千堂武士、フェザー級の西日本新人王や。」

一歩「西日本新人王!?」

「ウソ・・・・・!」

ウチは思わず本音がもれた。
“こいつが西日本新人王!?イメージと全然違う!”
まだ雑誌のチェックをしていないから、あくまでウチの中のイメージしかなかった。

木村「千堂?聞いたことあるぜ、たしか雑誌で、関西若手bPって騒がれてた奴だな。」

青木「“浪速のロッキー”ってお前のことか!」

「ウチのイメージが・・・。」

千堂「フン、関西(あっち)じゃちょっと強いとすぐ“○○のロッキー”とか呼びたがるんや。
映画のロッキーがごっつかっこええからっちゅーて、自分の町からもそーいうんを出したいのもわかるけど、勘違いしてもろうたら困るで!ワイのロッキーは“映画のロッキー”やない、“ロッキー・マルシアノ”のロッキーや!」

ロッキー・マルシアノ、ヘビー級史上の唯一無敗のまま引退した鉄人チャンピオン。

千堂「49戦49勝43KO、付け加えるんなら全階級通じて、引き分けナシの無敗はマルシアノだけや!さらにすごいんはこのあとや。」

そのあと、しばらく千堂はマルシアノのことを語り続けた、正直、木村も青木も若干引いていた。

千堂「しゃあけど、西日本トーナメントには失望したわ、どいつもこいつも小手先だけや、一発当てただけでバッタバタ倒れよる。
そんな退屈で退屈でしゃあないときに、アンタのビデオを見たんや!」

一歩「ボクの?」

千堂「“こいつや!”思うたわ、こいつやったらできる!漢同士のどつき合いがやれる思うたんや。
しゃあのに!棄権っちゅーのはどーいうわけや!拳の怪我なんぞやわなこと言うとらんで、全日本出てこんかい!」

一歩「そ、そんなこと言われても・・・。」

千堂「それでも男かい!ワイはおんどれとやるために、必殺技まで研究したんやで!」

「必殺技?」

思わず聞き返すと、千堂は“しまった”という顔をした。

千堂「こ、これはまだ秘密や、まだ未公開やしな、でもまぁ、あのスマッシュ見たら誰かて度肝抜かれるで。」

青木「お、お前、スマッシュ使うのか!?」

木村「たしか、スリークォーターのアッパーだろ。」

「その通り。」

すると、奴はまた“しまった”という顔をし、冷や汗をかいていた。

千堂「アカン!言うてもーた!内緒やでこの話は、な?」

全員「「ハァ?」」

“こいつ、バカなんだ。”
ウチの中で、少しだけ高感度が上がった。

千堂「ま、まぁバレてしもうたんモンはしゃあないわ、んなことより大事なんは試合や、おんどれマジで全日本ばっくれる気か?」

一歩「そう言われても、右拳が使えないわけで、それじゃボクシングにならないし。」

千堂「全治2ヶ月やろ、ギリギリ間に合うやんけ。」

ウチはなかなか引かない千堂と、困っている一歩の間に割って入る。

「無茶言うな、わざわざ大阪から来てもらって悪いけど、一歩は試合できる状態じゃないんだ。」

一歩「すみません。」

すると、千堂はものすごく悔しがっていた。

千堂「ええい、クソ!」

一歩「・・・・あ、ボクそろそろ行かないと。」

一歩は千堂の横を通り過ぎた。

千堂「どこ行くんや?」

一歩「ロードワークの時間なんです。」

千堂「ロードワーク?」

それから一歩はロードワークに、ウチは自転車で付き添いに出かけた、だがなぜか、それに奴もついて来た。

千堂「よう考えたら、ロードワークすっぽかして出て来てしもーたんや、ワイも走っとかなな。」

「一歩、そろそろはじめよう。」

一歩「はい!」

それを合図に、一歩はダッシュした。

千堂「ダッシュかい。」

千堂はニヤリと笑ったかと思うと、一歩を追い抜いて行った。

千堂「うおおおおお!」

キキィッ!

少し走ると、その先でブレーキをかけて止まった。

千堂「なんや、もう終いかい。」

一歩「あの、ダッシュとジョギング交互なんですよ。」

千堂「な、なんや、それ先言わんかい。」

そして2人は、しばらくダッシュとジョギングをし続けた、今日の分は走り終えた一歩は、千堂と一緒に近くの川辺で休憩をとった。
千堂「ハァ、いやぁアンタ、よう走んな。」

一歩「ど、どうも。」

「・・・・。」

千堂は少し息が上がっているも、この走りの量にケロっとついて来た。
“こいつ、いつもこのくらいはやってるんだな。”

千堂「なぁ、ホンマに試合やれへんのか?」

一歩「・・・・・。」

一歩は返事の代わりに頭を下げる。

千堂「ハァ、こんだけ言うてもアカンもんはアカンか、楽しみにしとったのに、ガッカリや。」

一歩「す、すみません。」

千堂「謝らんでもええわ、しゃあないっちゅーこともあるからな。」

そうは言っているものの、本人はガッカリと言わんばかりに顔を下げる。
“こいつ、本当に楽しみにしてたんだ、本当にボクシング好きなんだろうな。”
可愛いところもあるものだと、ウチは少し口角を上げた。

一歩「あの、なんでボクシングはじめたんですか?」

「あ、ウチも気になってた。」

千堂「あぁ?」

一歩「あ、いや・・・ちょっと、興味湧いちゃって・・・。」

千堂の睨みに、一歩は顔を背ける。

千堂「アンタ、どうせワイのことケンカ好きのやんちゃ坊主や思うてるんやろ、で、どの延長でボクシングはじめたて。」

一歩「え、いや、そんなことは・・・。」

千堂「ホンマか?」

一歩「まぁ、少しは・・・・。」

千堂「やっぱりか!」

一歩「ぎゃあ!」

千堂は勢いよく立ち上がったのに、一歩はビックリして悲鳴をあげた、それに対し、奴は一歩に顔を近付ける。

千堂「ワイはな、自分のことをええ加減に納得されんのが我慢ならんのじゃ!」

一歩「はい・・・。」

千堂「ええか、よう聞け!」

一歩「はい!」

奴の威圧感のある勢いに一歩は圧倒される。

千堂「ワイはな・・・・どつき合いが大好きなんや!しゃあからボクシングはじめたんや!」

奴は堂々と言い放ってみせた。

「でもそれって・・・。」

千堂「アカン、これやったらまるっきしやんちゃ坊主のセリフや!」

本人は自分の失態に気付いて、必死に弁解しようと奮闘していたが、どれも失敗に終わった。

千堂「ちょっと待てや、まだ納得するんやないで。
・・・あ、あれや!アンタもボクサーやったらわかるやろ、リングの上に強い男がおる、そしたら戦いたくなるやろが、ごっつ強い相手とどついてどつかれて、勝つ!そしてらワイは強いんやて、心の底から思えるやんけ!ワイは・・・その瞬間が大好きなんや!」

「・・・・・!」

ウチは、必死にボクシングをやる理由を語る千堂の表情に、心を惹かれるなにかを感じた。

千堂「アンタとやったら・・・。」

奴はそこまで言いかけたが。

千堂「フン!無駄な時間過ごしてもうたわ、シャワー借りて、さっさと大阪帰るわ。
あーあ、ホンマ骨折り損やで。」

文句を言うだけ言って、千堂は走って来た道を引き返して行った、仕方ないのでウチらもそれに続いてジムへ戻った、もちろんダッシュ&ジョギングで。

〜鴨川ジム〜

冬だとさすがに日が落ちるのが早い、帰ってくる頃にはもう真っ暗だった。

千堂「ほな、シャワー借りるわ。」

千堂はタオルだけ持ってシャワー室へと姿を消した。

青木「愛癒兎、千堂もロードワークついてっただろ、どうだった?」

「さすが、と言っとくところかな、一歩の今日のメニューは拳が使えない分いつもの倍走らせたんだけど、余裕でついてきたよ。」

木村「西日本新人王は伊達じゃないってわけか。」

「ほんと、できたら見たい試合だったよ。」

青木「愛癒兎がそこまで言うのかよ、あ、オレちょっとトイレ行ってくる。」

青木はトイレに歩いて行った、するとその直後に鷹村が戻ってきた。

木村「ちわッス。」

一歩「どうも。」

鷹村「青木はどうした、青木は。」

一歩「あぁ、青木さんなら・・・。」

一歩がそこまで言いかけたとき、鷹村がそれを制した。

カタン・・・

鷹村「そっちか。」

鷹村は音のした方向に向かって行ってしまった。

一歩「トイレに・・・・。」

木村「行っちまったな。」

「あっちはシャワー室だ、いるのは千堂だよ。」

木村「なにかあっても困るしな、見に行くか。」

一歩「そうですね。」

そして、ウチらも鷹村のあとを追いかけた。

〜シャワー室〜

ゴンッ!ガタ!

鷹村「なに見比べてんだコラ!夜ならオレ様の方が破壊力あんだろーが!」

千堂「な、なにすんねん!」

たどり着くと、すでに騒ぎが起きていた。

青木「どーしたんスか!鷹村さん!」

一歩たちが鷹村たちを心配してドアを開けたら、その直後奴らは固まった。

木村「アンタら、フルチンでなにしてんスか・・・?」

「お前ら、あいつらなにやってた?」

ウチは木村たちのうしろから、少し様子を確かめようとした、だが。

木村「バカ!見ちゃダメだ!」

木村が急いでウチの両目を目隠しした。

「木村大丈夫だよ、お前らの筋肉なんざ見慣れてる。」

木村「そーいう問題じゃねぇ!あんなモン見たら目が腐っちまう!」

「過保護だなぁ。」

木村は本当に昔から変わらない。

青木「ったく、駆けつけた自分が情けねーよ。」

鷹村「うるせぇ!テメーのおかげであんなえげつねぇモノ触っちまったんだぞ!」

目隠しされていてわからないが、声を聞く限り、また青木が鷹村に八つ当たりされているのだろう。

木村「とりあえず、アンタら服着てください!」

木村に言われて、鷹村と千堂はやっとシャワー室から出た、そして千堂は帰り仕度をはじめた。

千堂「いやぁ、えらい世話になりました。」

鷹村「なんだ、もう帰っちまうのか?」

千堂「練習せなアカンもんで、サインももろーたし。」

そう言って見せたのは、背中にデカデカと書かれた鷹村のサイン。

千堂「それに、もうここには用はあらへん。」

一歩「・・・・千堂さん。」

千堂「なんや?アンタかて、用ないやろ。」

一歩「・・・・。」

千堂「・・・・ほな、さいならや。」

片手を上げて、千堂はジムを出て行った。

鷹村「慌ただしい奴だったな。」

青木「け、オレは奴のせいで散々だったぜ。」

青木がふてくされてそう呟くと。

ガラ・・・

千堂「・・・・・。」

千堂が戻ってきた。

青木「な、なんだよ!」

それに青木が慌てる。

千堂「よう考えたら・・・ワイ行きの電車賃しか持ってけえへんかったんや、今晩ここに泊めてーな。」

ガクッ

千堂以外の連中全員が腰を落とした。

木村「ここに泊まるっつっても、ソファーで寝るしかねーぞ。」

千堂「それでええねん、ワイどっかに泊まる金なんて持ってないねん。」

だが、それだと現役ボクサーの体調管理にはよろしくない。
“だったら・・・・。”

「ウチの家、来る?」

全員「「えーーーーーーっ!?」」

ウチ以外の奴ら全員が、目をひん剥いて驚いた。

「え、どうしたの?」

青木「どうしたじゃねーよ!一番やっちゃいけねぇパターンだよ!」

鷹村「たまには青木もいいこと言うじゃねーか、今回ばかりは同意見だぜ。」

木村「愛癒兎、考え直せって、いくらお人好しなお前でもこれはやり過ぎだ。」

「困ってる奴を助けるのに、やり過ぎもクソもあるか。」

皆過保護だと思う。

青木「そーいう問題じゃねーんだよ!よく考えろ、男が一人暮らしの女の家なんてあがったら、なにするかわかんねーぞ?」

鷹村「男女がひとつ屋根の下っつったら、やることはひとつだからな。」

「やること?」

鷹村「それはな・・・・。」

木村「わーっ!!愛癒兎、それ以上聞くな!それに鷹村さんも教えないでください!」

木村たちがギャーギャーと騒ぎ立てる。
“この隙に・・・・。”

ガシ

千堂「な、なんや?」

「走るよ。」

ウチは千堂の手を掴み、ジムから飛び出した。

木村「だから!鷹村さんも愛癒兎に変なこと教えないでください!」

鷹村「んだよ、20歳なんだからこれぐれー覚えても損はねーよ、なぁ愛癒兎・・・っていねぇ!」

青木「おい、千堂もいねーぞ!」

鷹村「逃げやがったな!あいつらぁ!」

〜・〜・〜・〜

鴨川ジムから、ウチらはダッシュで走っていた。

「ハァハァ・・・ここまで来れば追ってこないかな?」

千堂「ハァハァ、アンタ、足速いな。」

「昔、鷹村たちの練習に混ざってよく走ってたから、足だけは速いよ。」

上がっていた息も、すぐ元通りになった。

千堂「それよか、手・・・・。」

「手?」

目線を下げてやっと、ウチらが手を繋いでいることに気が付いた。

「あぁゴメン、気にするタイプだった?」

千堂「ワイかて男や、少しは気にするさかい、アンタは全然気にせーへんの?」

「まったく。」

そう言って手を離す、そのとき、千堂が少しだけ残念そうな顔をしたのは気のせいだろうか。

「もうすぐ家だから。」

そのあとは、2人でゆっくりと夜道を歩いた。

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あきゅろす。
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