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東京の兎と浪速の虎
第15R 「一歩 はじめての後輩」
〜愛癒兎 Sido 19〜

今日の鴨川ジムは、いつもより活気に溢れていた。

八木「じゃあ全員に行き渡ったよね、明日までにこの用紙にハンコを、それから入門金も忘れずに。」

希望者「「うッス!」」

入門希望者の野太い返事が返ってきた。

一歩「最近すごいですね、入門希望者。」

「うちの四枚看板、鷹村と木村と青木と一歩は破竹の勢いだからね、おかげでサンドバックも新調できるよ。」

これから足されるであろう調達金で、サンドバックを購入する予算を計算していると。

木村「あー腹減ったぁ。」

青木「お前はまだいいよ、ラーメン屋勤めに減量は地獄だぜ。」

木村と青木がそう言って、ダレながら更衣室へ入って行った、それを見た入門希望者たちが、ザワザワと騒ぎはじめる。

希望者「ライト級の青木さんだぜ!」

希望者「木村さんも一緒だ!」

希望者「お、着替えてきた!」

希望者「ちょっと見てようぜ!」

そして、入門希望者たちは2人の様子をジッと眺めている。

希望者「何気ないけど、様になるよなぁ、あぁいう仕草。」

希望者「プロって感じだよな。」

シュッ!シュッ!

木村が軽くウォーミングアップをする。

希望者「すげー、手が見えねーよ!」

希望者「すると、鷹村さんはもっとなのか?」

希望者「当然だよ!チャンピオンだぜ?」

希望者「いや、新人王の幕之内さんのパンチもすげーよ!」

そう言って、何人かが一歩のとなりに座る。

希望者「オレは幕之内さんに憧れてこのジムにきたんだ。」

希望者「破壊力なら鷹村さんの方が上だろ。」

希望者「バーカ、階級が違うだろ。」

“その幕之内さんはお前らのとなり。”
心の中でそうボヤく。

木村「うるせーなぁ。」

木村の癇に障ったのか、少しキレていた。

「木村、今んとこは調子いいじゃん。」

木村「それ言うなよ、ヘコむだろ?」

「ハハ、ま、がんばれ。」

コソコソ・・・

希望者「おい、あの人木村さんに軽口叩いてるぜ!誰だよ!」

希望者「お前知らねーの?あの宮田一郎さんの姉、愛癒兎さんだよ。」

希望者「あ、雑誌で千堂がコメントしてた女性!?マジかよ!」

希望者「可愛いなぁ。」

ウチと木村がしゃべっていると、コソコソと何人かが耳打ちしていた。
“やれやれ、誰かさんのせいでウチも有名になったモンだ。”
誰かさんとは、大阪にいるバカのことだ。

青木「お?なんだ、いたのか一歩。」

希望者「「え?うおわぁっ!」」

青木が声をかけると、ようやく入門希望者たちは一歩の存在に気が付いた。

希望者「おまっ・・・となりにいて気付かなかったのかよ!」

希望者「同じ新人かと・・・・!」

一歩「アハハ・・・・・。」

一歩は苦笑いしていた、そして。

ガラガラ

鷹村「・・・・・。」

鷹村もジムにやってきた。

希望者「鷹村さんだ!」

希望者「本物だ!」

希望者「サインもらえないかな!」

入門希望者たちがザワザワと騒いでいる中、鷹村はさっさと着替えて、サンドバックを打ちはじめた。

ドガンッ!

サンドバックがものすごい音を立てて揺れる。

希望者「「おおおっ!!」」

だが鷹村は。

鷹村「じゃかあしいんじゃい!ピーチクパーチクと!」

さっきのは、ザワザワとうるさい入門希望者たちへの怒りの拳、堪忍袋の限界に達した鷹村は、彼らに食ってかかる。

一歩「鷹村さん!」

木村「抑えて抑えて!」

青木「減量中のこの人に、迂闊に近付くんじゃねーよ!」

木村たちが鷹村を押さえるが、まだ暴走は止まらない。

「ハイ、そこまで。」

ボカッ

ウチは鷹村の頭を軽く殴った。

鷹村「フン!帰れ帰れ!サインだのなんだの言ってるようじゃ、プロは務まらねーんだよ!」

希望者「自分は本気ッスよ!わりと自信ありますし!」

希望者「オレだって、体力なら負けないぜ!」

鷹村「・・・なんなら、テストしてやろうか?」

“まさか・・・・!”

鷹村「簡単なこった、いつもオレたちがしてるロードワークに着いて来れるかどうかだけだ。」

希望者「チャンピオン直々ですか、そりゃ喜んで!」

鷹村「ほう(ニヤッ)」

鷹村が悪魔の顔をする。

木村「おもしろそーじゃん(ニヤ)」

青木「いっちょやりますか?」

木村も青木も黒い笑みを浮かべる。

「ちょっと待てお前ら!」

鷹村「よっしゃ!ついて来いや!」

希望者「「はい!」」

鷹村たちの悪魔の誘いに、入門希望者たちはまんまと引っかかって出て行ってしまった。

八木「大丈夫かな、いきなり。」

鴨川「フン、初っ端に厳しさを味わうのもええじゃろう、結局はやる気のある奴だけが残るんじゃからのう。」

「しかし会長、入る前の素人たちには、あいつらの練習量はキツ過ぎます、あれじゃ誰も残りませんよ。」

一歩「ボク、見てきます!」

「あ、ウチも!」

一歩は徒歩で、ウチは自転車で奴らのあとを追いかけた。

一歩「ハァハァ!」

しばらくすると、道端に何人もが倒れていた。
“あいつらも容赦ないなからなぁ。”
悪魔の笑みで容赦なく走り去って行く3人が目に浮かぶ。
しばらく走っていると、木に手をついて、嘔吐してしまっている少年を見つけた。

一歩「君!大丈夫!?」

急いで駆け寄る。

「少し休みな!」

少年「ハァハァ・・・・!」

それでも、少年は走ろうとする。

一歩「君!少し休もうよ!」

「テストと言っても関係ないよ、入門は自由だし、ロードワークは少しずつ慣れていけばいいんだ。」

一歩「愛癒兎さん、ここはボクに任せて鷹村さんたちを追ってください。」

「・・・わかった、君、あとからゆっくり来なよ?」

そう言い聞かせて、ウチは自転車に乗って3人を追いかけた。
それから夕方、結局追いついたのはジムにたどり着いてからだった。

一歩「たったのひとり!?」

鷹村「フン、口ほどにもねぇ。」

八木「まだ入門金も受け取ってなかったのに・・・。」

木村「まぁ、いいじゃないッスか、根性ない奴はどーせ続かないんだし。」

「よくない!」

ドカッ×3

ウチは鷹村たちの顔面に、それぞれストレートをお見舞いしてやった。

「お前ら、少しは加減ってものを覚えろ!」

鷹村「加減したところで、根性ねぇ奴が残っても続くわけねーだろうが。」

「人が増えなきゃ金も増えない!金がなきゃ、サンドバックのひとつも買えねーの!わかる!?」

八木「まぁ、愛癒兎ちゃん落ち着いて。」

八木さんがウチを押さえる。

希望者「ハァハァ・・・・!」

一歩「あ、どこ行くの?」

希望者「い、いや、オレ・・・ちょっと今日は・・・また明日来ますんで・・・。」

肩で息をしながら、重い体を引きずりながら、残ったひとりは帰って行った。

木村「来ると思うか?」

青木「二度と来ねーな。」

「鷹村「せっかく育ててあげようと思ったのによ。」

一歩「はぁ・・・・。」

一歩がため息をついた。

木村「どうした?」

一歩「いや、たくさん後輩ができると思って楽しみにしてたんですけどね・・・。」

木村「そりゃ残念だったな。」

「お前らのせいだ。」

ドスッ

木村「ぐえっ!」

木村にボディーブローをかましていたそのとき。

木村「見ろよ一歩!ひとり来たぜ!」

青木「えらい!」

鷹村「なかなか根性見せるじゃねーか、オレ様に憧れて入ってきたに違いねーな。
よし!ひとつ目をかけてやるとするか!」

青木「いやいや、オレが育てます。」

木村「なに言ってんスか!オレに憧れてきたに決まってますよ!オレが面倒見ます!」

3人がいがみ合う。
“根性ない奴はいらないって言ってるけど、なんだかんだいって後輩がほしいんだよな、こいつら。”

3人「「オレの胸にさぁ!飛び込んでこい!」」

3人は腕を広げてその人物を待ち構えた、だが。

少年「ハァハァ・・・・!」

鷹村「さて、練習練習。」

汗、鼻水を垂らしながら走ってきた少年を見た鷹村たちは、その子を見捨てて戻ってしまった。

一歩「そんな!せっかく完走したのに!」

鷹村「なら、お前が面倒見てやれよ。」

木村「オレたちは忙しいんだよ。」

鷹村たちはキッパリと切り捨てる。

一歩「まったくもう!」

鷹村「ほら、愛癒兎も戻るぞ。」

「離せ鷹村!」

ウチのことも引きずってジムに戻ろうとした。

一歩「よくがんばったね!」

少年「ぅ・・・おぼろろろっ!」

一歩「おわああ!?」

無理に走りきった少年は、その場でまた嘔吐した。

鷹村「いい後輩ができたみてーだな・・・。」

木村「そうッスね・・・。」

その後、吐き気が落ち着いてから、少年はジムにあるシャワー室で汗を流していた。

鷹村「ゲロ道はまだシャワーか?」

「ゲロ道?」

鷹村「あいつの名前は、山田直道っつーんだよ、16歳、高校2年!ゲロの直道だからゲロ道!グッドネーミングだろ!」

鷹村は豪快に笑う。

木村「スポーツ暦はナシか。」

木村も、鷹村の持っている入門願書を覗き込む。

「着替えここに置いとくよ、ポケットの中身もここに・・・。」

ポト・・・

そのとき、なにかが落ちた。

青木「ん?定期入れか?」

青木が拾う。

ガラガラ

ゲロ道「う、うわあ!」

ゲロ道がシャワー室から戻り、それを必死に取り返そうとした。

鷹村「どうした?」

その様子を見た鷹村が、ゲロ道を押さえ込む。

鷹村「へへ、なんか隠してやがんな?」

青木「好きな女の写真か?」

木村「それでは・・・・。」

皆が定期入れを覗き込んだ、その中身は。

一同「「あ・・・・・・。」」

中には、一歩の写真が入っていた。

鷹村「そっか、ゲロ道は一歩のファンか。」

木村「いいな、一歩。」

一歩「ぅ・・・・。」

鷹村たちは遠い目をして、一歩が羨ましいとアピールする。

「ほら、もう暗いんだから、皆帰る支度しな。」

いつまでも一歩を羨ましがる3人を急かしながら、ウチも帰り仕度をしていた。
“新しい仲間も増えた、これでまたジムが賑やかになるかな?”
今度入ったゲロ道は、長く続きますようにと、心の中で祈った。

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あきゅろす。
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