東京の兎と浪速の虎
第10R 「全日本新人王決勝 3」
〜愛癒兎 Sido 12〜
「か・・・改良型、スマッシュ!」
鷹村とのスパーから今日までの間で、ここまで改良した超低空型スマッシュを完成させていたとは思わなかった、本人は“決まった”という顔をしている。
木村「おいおい、スマッシュの難点は守備なんだぜ、それを守備の補強じゃなく攻撃力UPの改良かよ!」
鷹村「あいつらしい発想だぜ、一歩もなんとかガードしたが、その上からでも効くだろ。」
案の定、一歩は足にきていた。
それをチャンスと千堂が踏み込む、そしてまたスマッシュをお見舞いするが、一歩はなんとかよける。
「あんなのもらったら、一溜まりもない・・・!」
木村「なんとかかわしてるけど、このままじゃジリ貧だぜ!」
青木「ブロック以外になんかねーのかよ!」
鷹村「あることはあるんだが。」
木村・青木「「え?」」
木村と青木は目を丸くする、そんなときリングに視線を戻すと、千堂のスマッシュを食らうまいと、一歩は奴に体を預けていた。
男「なんやクリンチかい!」
男「男らしく打ち合わんかい!」
観客がブーイングをかます。
“いや、あれはクリンチじゃない、接近戦だ。”
一歩「!」
ドスッ
千堂「かっ・・・・・!」
予想通り、一歩は近距離で一発いれた、そして超接近戦を仕掛けはじめた、それに千堂も応えるようにやり返す。
男「スマッシュや千堂!」
観客たちは、千堂にはスマッシュがあると騒ぎ立てる。
木村「素人共が、スマッシュなんざ出したくても出せねーんだよ。」
山口「え、なんで?」
「あれが鷹村の言うところのスマッシュ封じなんです、一見危険なように見えますけど、スマッシュは中距離ブローですから、あれだけくっつかれると打つに打てない、結果的にスマッシュを殺してることになるんです。」
山口「へぇ!すごい!考えてるのね、一歩君!でも見てるだけでわかるなんて、さすが!」
木村「いやぁ。」
「ボクシング関係者なら、誰でもわかりますよ。」
となりを見ると、青木の顔色が悪かった、おそらくわかっていなかったのだろう。
リング上では、一歩と千堂の神経をすり減らす戦いが続いていた。
青木「それでいい!離れんじゃねーぞ!くっついてりゃ必ず突破口が見つかるぜ!」
青木は一歩にそう声援を送る。
鷹村「あのままじゃ見つからねぇ。」
鷹村の言う通りだ、今の一歩はただ必死になっているだけだ、スマッシュという刃物をチラつかされて、プレッシャーに押し潰されてもがいている。
青木「それじゃ、接近戦はスマッシュの予防をしてるだけってことかい?」
「だから、ロープ背負ったら最悪だよ、改良型スマッシュは、ロープ際で活きるパンチだからね。」
そして両者は動かなくなった、さすがに疲れたのか、もしくはパンチを出すタイミングを窺っているのか。
鴨川「先行じゃ!打ち返す暇を与えるな!先に打て!」
会長がそう叫ぶと、一歩は仕掛けようとした、だが。
バッ
「あ・・・!」
千堂がバックステップをとり、距離をとった。
「その距離は・・・!」
中距離、スマッシュの射程距離だ。
鴨川「くっつくんじゃ!」
会長の指示に反応して一歩は飛び出した、千堂のスマッシュに合わせてカウンターを繰り出したが。
スカッ
一歩「!?」
「スマッシュがフェイント!?」
ガツン!!
千堂は右を繰り出した、一歩はガードしたものの効いている、そしてその隙に、千堂は改良型スマッシュを放とうとしていた。
ガシュッ
スマッシュは一歩の頬をかすめた、奴はロープを掴んで倒れるのを拒否した、だが目の前には千堂が待機していた。
木村「マズイ!!」
「一歩ッ!!」
そのとき。
カンカン!!
ゴングが鳴り響いた、一歩はゴングに辛うじて救われる。
一歩「ハァハァ・・・・!」
千堂「・・・・!」
第2ラウンドは、第1ラウンドとは違い、一歩がゴングに救われた、コーナーに戻るとき、千堂だけは拳を高々と掲げて戻って行った。
ドクン・・・
「!」
そんな千堂の背中を見て、ウチは心臓が高鳴った。
“なに・・・なんなの?この気持ち・・・・。”
山口「あぁもう!一歩君あんなにがんばってるのに!なにかいい手ないの?」
木村「スマッシュのプレッシャーがキツイから、どうしても守りに入っちまうんスよ。」
鷹村「お、そうだ!一歩もスマッシュで応戦するってのはどうだ?千堂もビックリするぜ!」
鷹村は名案と言わんばかりに提案する。
青木「なに言ってるんスか!付け焼刃でできるモンじゃないッスよ!」
木村「待てよ、スマッシュでミドルレンジを抑えられてるんが原因なんスよね、むしろ接近戦は一歩に分があったんだから・・・スマッシュに対抗できるミドルレンジのブローさえあれば、プレッシャーを跳ね除けて、また接近戦に持ってけるわけですよね、一歩のパンチの中でいうと・・・・。」
青木「パンチの中でいうと?」
木村はしばらく考えていたが。
木村「ダメだ!見つかんねぇ!」
笑ってごまかした、それにキレた青木と鷹村は、木村を踏み潰した。
「困ったな・・・・。」
〜千堂 Sido 7〜
柳岡「よし千堂、ええやないか、幕之内はそうとう効いとるで。」
千堂「アカンアカン、あいつはあの程度で諦める玉やないわ、ゴング間際、グロッキーのくせしやがって、まだなんかやろうとしてたで。」
ゴング間際の幕之内を思い出す。
柳岡「長引くとどうなるかわからんっちゅーことか?・・・よっしゃ!次のラウンド、イケる思うたらGOや!たたみかけ!」
千堂「言われんでも、そのつもりや!」
“このままじゃ、愛癒兎にカッコつけられへん。”
ワイは愛癒兎のいる方向をチラリと向いた。
「!」
愛癒兎と視線がぶつかる、すると。
「(ニコッ)」
愛癒兎はふんわりと微笑んでくれた、それにワイは安心して、右手を軽く突き出して応えた。
柳岡「お、なんや千堂。」
千堂「べつに、愛癒兎の笑顔に応えたっただけや。」
柳岡「幕之内にKO勝ちして、カッコよく決めたれや!」
千堂「おう!」
そして、ワイは自分の戦場に戻って行った。
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