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東京の兎と浪速の虎
第1R 「ただいま 鴨川ジム」
〜愛癒兎 Sido〜

電車の中で、とあるボクシング雑誌で見た名前。

「幕之内一歩、東日本新人王か。」

その男、幕之内一歩とは、今期待の新人プロボクサーのことだ、だがウチが雑誌を見て口角を上げたのはそれが理由じゃない。

「鴨川ジム・・・うれしいね。」

彼の写真の横に、鴨川ジムと書いてあったからだ。

ガタン、ゴトン・・・

「久しぶりだな、あそこ行くの。」

雑誌を閉じ、ウチは電車を降りた。

〜鴨川ジム〜

「相変わらず汚いなぁ。」

何年かぶりに訪れたジムを前にして、ポツリとこぼれた本音。

ガラガラ

「こんにちわー。」

挨拶と同時に中へ入る。

男「あの、どちら様でしょうか?」

「このジムの人ですよね?鴨川会長を呼んで頂けますか?」

少し待つように言われ、近くにある柱に寄りかかって待っていると。

鴨川「おぉ!久しぶりじゃな!」

八木「元気にしてたかい?」

「会長!八木さん!」

数年経っても変わらない知人に安心する。

鴨川「いつ帰って来たんじゃ?」

「今日ですよ、イタリアからそのまま、こっちに直行しました。」

八木「長旅で疲れたでしょ。」

「いいえ、ウチは帰って来たくてウズウズしてましたから、疲れてなんていませんよ。」

そう、ウチは昨日までイタリアにいた、高校2年から大学1年は向こうで生活していたのだ。
だがやはり日本が恋しくなったのと、イタリアに行くまでお世話になっていた鴨川ジムに“もしよければ、本格的にトレーナーをしてくれないか?”と誘われたのが理由で、また帰国したのだ。

「あいつらは元気にしてます?」

八木「今はロードワーク中だよ、そろそろ帰って来るんじゃないかな?」

八木さんがそう言ってドアを見つめたそのとき、ちょうど窓にシルエットが映っていた。

ガラガラ

青木「あ〜!走った走ったぁ!」

木村「冬でも走りゃ、暑くなるな。」

八木「皆おかえり!君たちに会長からプレゼントだよ!」

青木・木村「「プレゼント?」」

八木さんと会長のうしろに隠れていたが、ウチは2人から外れて。

「ただいま、お前ら。」

笑顔で前へ出た。

青木「あれ?もしかして・・・。」

木村「お前、愛癒兎なのか・・・?」

「それ以外の誰だっつーの?」

すると、固まっていた2人が目を丸くして騒いだ。

青木「うおー!久しぶりじゃねーか!いつ帰って来たんだよ!」

「今日、イタリアからまっすぐここへ。」

木村「愛癒兎、大人になったな。」

「木村こそ、出会った頃より男前になってんじゃん。」

久しぶりの再会に、皆で話に花を咲かせていると、今まで珍しく黙っていたあの男が口を開いた。

鷹村「・・・・貴様、ほんとにあの愛癒兎か?」

「なんだよ鷹村、ウチの顔忘れちゃった?」

鷹村「・・・・・。」

「え、なに?」

鷹村が、ウチのことを上から下までよく観察する。

鷹村「オレ様の知ってる愛癒兎が、こんなナイスバディの色っぺー姉ちゃんなわけがねぇ!」

ドン!と効果音が付きそうな勢いで、鷹村は言い放った。

「殴っていい?」

ウチが真っ黒な笑みを浮かべて鷹村に殴りかかろうとすると、木村が前から押さえる。

木村「お、落ち着けって!相手は鷹村さんだぞ!」

「知るか!重量級のボクサーだろうと、こんなゲスはここで成敗してやる!」

ウチは額に怒りマークを浮かべて鷹村を睨む。

木村「お前、大人になって少しは女らしくなったかと思えば、中身は全然変わってねーんだな。」

青木「でもよ、ほんと綺麗になったぜ?愛癒兎。」

青木がウチに親指を立ててグッジョブとサインを送る。

「フー・・・・ッ!」

鷹村「自分の怒りを抑えようとするとき、猫みたいに威嚇するクセ、まだなおってねーんだな。」

「おかげさまで。」

青木「まったく、可愛いウサギかと思えば中身は凶暴な猫、ちっとも変ってねーな。」

鷹村「いや、あの頃はただの猫だったが、今は立派な女豹じゃねーの。」

鷹村がまた下品な目で、ウチを舐めるように見る。

「お前・・・!」

そのとき。

ガラガラ

一歩「今日も寒いですね・・・あれ?皆さんどうしたんですか?」

鷹村「おう一歩、やっと来たか。」

東日本新人王のご登場だ。

一歩「あの、そちらの人はどなたですか?」

「はじめまして、東日本新人王の幕之内一歩君だね?」

一歩「え、あ、はい。
あの、あなたは・・・?」

「宮田愛癒兎、今日からここのトレーナーになったんだ、よろしく。」

握手を求めると、一歩は慌てて右手を出した。

青木「なんだよ、お前こっちに戻ってきてくれんのか!」

「今度は正式にトレーナーになったから、ずっとこのジムにいるよ。」

一歩「戻って?」

一歩が首をかしげる。

鷹村「オレ様が入門する前から、こいつはいるのさ。」

木村「オレたちが入門して1年くらいで、イタリアに行っちまったがな。」

一歩「そうだったんですか、じゃあボクより先輩ですね。」

「一歩って呼んでいい?ウチのことも愛癒兎で構わないからさ。」

一歩「え、じゃあ愛癒兎さんで。」

一見オドオドして頼りない少年に見えるが、服の上からでもわかる頑丈な鍛え抜かれたその体つき、新人王も伊達じゃない。

一歩「あ、そういえば苗字が宮田って・・・。」

「あぁ、プロボクサーの宮田一郎はウチの弟だよ。」

そう言うと、一歩は目を丸くした。

一歩「あの宮田君のお姉さん!?」

「なんだ、一郎の奴なにも言ってねーの?」

一歩「ボクてっきり、宮田君は一人っ子だとばかり。」

「あの短気でわがままなお坊ちゃん気質、どう見ても弟だろ?」

一歩「宮田君はわがままなんかじゃありませんよ!ただ少し、自分の意見をまっすぐ貫き通すだけです!」

木村「それをわがままっつーんだよ。」

木村が一歩の頭を軽くはたく。

青木「けどよかったじゃないッスか、鷹村さん、愛癒兎がいなくなって数週間はちょー不機嫌だったから。」

鷹村「またオレ様専属にしてやるよ、なんならオレ様の女にしてやろうか?」

懲りない奴の下品さに、ウチはもう一回キレた。

「この野郎!一発殴られなきゃ気が済まねーようだな!」

木村「お。落ち着けよ!」

それを木村が必死に押さえる。

木村「高村さんにケンカ売ったらただじゃ済まねーし、お前もキツイだろ?だからここはやめとこうぜ、な?」

「・・・・わかった。」

ウチは不満げに頬を膨らませながら、渋々引き下がった。

木村「(可愛いなぁ)」

木村がこちらを見つめている。

「どうした?」

木村「!いや、なんでもねぇ!」

木村は急いでウチから視線を外した。

木村「オレ、ちょっくらトイレ言ってくるわ。」

そして姿を消した。

「変なの。」

青木「愛癒兎、お前相変わらず鈍いな。」

「そうか?むしろ他人への心遣いは敏感な方なんだけど。」

鷹村「そっちじゃねーよ。」

“じゃあなんなんだよ。”
と聞こうとしたら、忘れかけていた八木さんが話しかけてきた。

八木「にしても愛癒兎ちゃん、今日いきなり帰ってきて、これからどうするんだい?」

「一軒家あるんで、そこで一人暮らしですよ。」

鴨川「なら、もう帰った方がよかろう、冬は暗くなるのが早い。」

「わかりました、ではまた明日。」

とりあえず、ウチは会長の言葉に甘えることにし、家へ帰宅した。

〜・〜・〜・〜

「ふぁ〜・・・眠い、もう寝よっかな。」

ベッドに横になり、スマホを手に取る。

「一応LINEしとくか。」

ウチは一郎に、日本へ帰ってきたことと、鴨川ジムの正式なトレーナーになったことをLINEで伝えた。

・・・ピロン

するとすぐに既読が付き、返事が返ってきた。

一郎《おかえりなさい、イタリアへ行っても彼氏がつくれなかったようで安心した。
明日もいきなりトレーナーの仕事あるんでしょ?もう寝たら?》

「寝る前に一応LINEしたんだっつの。」

少し悪態をつきながらも、ウチはおやすみとLINEした。

一郎《おやすみ》

またすぐにLINEは帰ってきた。

「さて、寝るか。」

スマホを充電器に繋ぎ、電気をおとしてベッドに潜った。

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