銀の夢
銀色を拾った日1(現パロ高♀銀アンケート2位)
その日は小雨だった。
朝から、雨が今にも降りだしそうな重い鉛色の雲が、空一面に広がっていた。
そんな空を眺め、顔をしかめていると、つけっぱなしのテレビから「今日は、降水確率80%です。お出かけの際は傘をお忘れなく!」と最近出てきたアナウンサーの声が聞こえた。
そうか、今日は雨が降るのか。
そう頭の隅で考えながら、タバコを吸う。
しばらく、そうしていると机のうえに雑に置かれているスマホがバイブ音を奏ではじめた。
電話だ。スマホに表示されているのは河上万斉の文字。
大方、早く出勤しろ。という催促だろう。
確か、今日はお得意の客が来るって言っていたなァ。
そう思い出しながら、華麗に電話のバイブ音を無視する。どうせ、出てもうるさいだけだ。
何10分無視していただろうか。やっとバイブ音がならなくなった。
もう既に短くなった、タバコをグリグリと灰皿にこすりつけた。
微かに部屋に漂うタバコの香り。
もう一眠りしようかと、柔らかいソファに寝そべった時だった。
ピンポーン
無機質な呼び出し音が部屋に響いた。
タイミングが悪りぃな。居留守にしよう。
と瞬時に考えた高杉はすっと何事もなかった様に目を閉じる。
ピンポーンピンポーン
尚も鳴り続ける呼び出し音。
だが、高杉はぴくりと顔を渋めただけで動きはしなかった。
だが、
ピンポーンピンポーンピンポーンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
「うるせぇぇぇぇぇッ!!!!」
ガチャ
「あ、出てきたでござるな。晋助、早く出勤するでござる。」
聞くに耐えなくなり、もともと沸点の低い高杉が思わずドアを開けると、そこにはサングラスをつけた男が立ったいた。
「てめぇ、なに人が気持ちよく寝ようとしてるとこ邪魔してんだ。あぁ?万斉?」
「邪魔して当然。安眠したいなら、ちゃんと仕事をするでござるよ。」
ふん。とざまぁみろとばかりに万斉が鼻で笑った。
黙ってドアを閉めようとしたが、やはり止められる。
くそが、サングラス割ってやろうか?
ギロりと睨みつけたが、サラリとかわされた。
「オーナーも怒ってるでござるよ。流石にNo.oneホストと言えども仕事をしないんじゃ減給だと言伝を預かった。」
「あぁ?ババァが?」
イライラしながら、聞き返せばこくりと首を縦に振った。
オーナーとは高杉、万斉が働くホストクラブのオーナーお登勢である。通称生きる屍。
結構なやり手ではあるが、情が厚く、多くの人に慕われている。
まぁ、高杉も拾われた身である。
だが、怒らすとまぢで怖い。さすがの高杉もオーナーが腹をたてていると聞き、少し顔を青くした。
ババァの事だ、まじで減給をやりかねん。
はぁ。とため息を着くと、万斉をちろりと横目で見る。
相変わらず何を考えているのか分からない顔をしている。
「しゃァねぇな、癪だが出勤するとするかァ。」
懐からタバコを取り出し、火をつけながら言えば
万斉がニヤリと笑った。
「流石の晋助も、オーナーには逆らえないでござるな。」
「あぁ?何か言ったかァ?」
「いーや、何もないでござる。」
ギロりと再び睨みつけたが、万斉は皮肉に唇の端を上げただけだった。
まぢで、後でこいつ刈り上げてやらァ。
と心に決めた高杉であった。
***
「そっちにいったぞ!追え!」
「絶対に逃がすなぁ!彼奴は主人のお気に入りだからな!」
「捕まえられなかったら、一体なにをされるか!」
沢山の足音、怒号が飛び交う中。
小さな銀色は物陰で息をひそめる。どうか、見つけないで!何処かへ早くいって!と心の中で念じながら、さらに身を縮めた。
幸いにも、足音はと遠のく。
ほっと息をつき、物陰から姿を晒す。銀色の柔らかく長い髪が月に反射しキラキラと美しく光っていた。美しい顔は酷く苦しそうだった。
そして、また銀色は細い足を必死に動かしはじめる。
はやくはやく、遠くへにげなきゃ。
怖い怖い怖い。
遠く遠くへ!もっと遠くへ!捕まらない場所に!!
はぁはぁ、と息を切らしながらも必死に走る。身体が重い。
だが、それは仕方がない。何故なら彼女には重い足枷が付いているのだから。
ジャラジャラと足を動かすたびに雑音を生みだす。
けれど、そんなのは御構い無しに彼女走った。
気にしていたら、きっと捕まってしまうだろう。
不意に暗い路地裏から通りに出た。
すると、急に明るい光が彼女を照らした。
何!?
それは、不運な事にトラックの光だった。
ぶつかるー…っ
瞳に映るトラックの眩しい光。
その光が彼女の銀色の髪と足枷をきらりと更に光らせたのだった。
***
「たくっ、今日は散々だったぜ…。」
高杉は不機嫌ながら夜の街歌舞伎町を歩いていた。
しとしと降る雨。
出勤する時に無理矢理持たされた傘をさしながら文句を一人垂れる。
だいたい出勤した途端、嫌な客に捕まり、本当大変な目にあった。
香水きついわ、化粧は厚いわ、セクハラはしてくるわ。
つーか、女の癖にセクハラたぁどういう事だ。あの女は。
いまだ、擦りよってくる感触が拭えず、顔を顰める。
客の相手が終わった後も、店の売り上げNo.3の万斉を八つ当たりにバリカンで刈り上げようとしたが、見事に逃げられた。くそが。
そんな調子で歩いていると、ふと暗い路地裏できらりと光るものを見つけた。
何だ?
と不思議に思い、路地裏へと足をのばす。
近づくとそれが人間だとわかった。
「なんだァ、こいつは?」
思わず息をのんだ。
キラキラと光り輝く銀色の髪。肌も雪の様に白く、顔も恐ろしく整っていた。
本当に同じ人間なのだろうか。
まるで、別次元だ。
ほぅ。と見惚れていたが、ある事に気づく。
銀色の細く美しい足に重々しい足枷が付いている事に。
他にも、至るとこにアザや傷がある。
寝顔も何処か苦しそうで、息が荒い。
やべぇな。と瞬間的に思った高杉はヒョイと銀色を抱き上げた。
「軽いな…」
思った以上に軽い身体に驚く。
少し力を入れれば、消えてなくなってしまいそうな気がして、優しく優しく抱く。
おデコを触ると、やはり熱かった。
こりゃぁ、結構あるな。と確信した高杉は急いで家に帰ることにした。
幸いな事に、さっきまでしとしと降っていた雨はいつの間にか止んでいて、雨の残り香が辺りを漂っていた。
さしていた傘を畳み、そのへんに放り投げる。
傘を持って帰るのは
面倒いからだ。ただでさえ、人一人抱えているのだ。まあ、さほど重くはない。むしろ、軽いぐらいだ。
まぁ、彼女をもしも誤って落とさないためにも傘は置いてく。いや、捨ててく。
小さく息をする彼女を気遣いながら、高杉は自分の家へと足を早めた。
***
ああ、気持ちいい。
こんなに暖かいのは久しぶりだ。
フアフア、フアフア。
この優しい空間にいつまでも身を委ねていたい。
だが、その願いは虚しくも叶わない。
急に場面が変わる。暖かい空間はなくなり、冷たい暗い空間へと変貌した。
急にドロリとした感触が手に伝わる。
それはとても鉄臭い。嗚呼、血だ。
真っ赤な真っ赤な血。一体誰の?自分の手元を見れば、大切な人が横たわっている。
息が苦しくなった。
あゝあゝ、苦しい、苦しい。助けて。
先生、先生!!行かないで、一人にしないで。
ポタポタと水滴が落ちる。
すると、すっと手が伸びてきた。
せ、先生?
『貴方のせいです。』
え?何を言っているの?
『貴方のせいで、私は死んだんです。』
俺のせいで。俺のせいで先生は死んだの?
そんな!
絶望のなかを頭を抱えると、先生がある男へと変わる。
『そうだよぉ。君のせいで、先生はしんじゃったんだぁ。』
いやだ、いやだ。辞めて!!
『可哀想にねぇ。君は不幸な子なんだよぉ、周りの人までも不幸にしてしまうんだねぇ。
だから、僕が君をぉ、監視しないとねぇん。』
男はニヤニヤしながらちかづいくる。
『君は悪い子なんだ。だからちゃんと躾しないとぉ。』
そう言って手を伸ばし、顎を強引に掴まれた。怖くて、震えがとまらない。
ねっとりした視線を感じる。
『君はぁ、僕から逃げられないんだぁよ。』
そう唇を歪めた。
はっと目が覚めた。
眩しい太陽の光が当たり、目を細めた。
俺、助かったのか?
確か、昨日は迫ってきたトラックをぎりぎりのところで避けたのだ。
それでまた、路地裏に入って…?記憶がない。考えるに途中倒れてしまったのだろう。
手を見てみると綺麗に包帯が巻かれていた。
これを見る限り、捕まってはいないようだ。
だって、こんな丁寧な事はしてもらえない。
せいぜい、唾をつける程度だ。
では、此処はいったい何処?
キョロキョロと辺りを見渡す。とても簡素でシンプルな部屋の作りだった。
すごい、置いているもの全部白黒だ。
「あ?何だ起きたのか?」
部屋を興味津々に見渡していると、不意にドアが開いた。
そこから、姿を現したのは偉くイケメンな男だった。
羨ましいぐらいの紫掛かったサラサラの黒髪に鋭く光る翡翠色のふたつの瞳。
彼は、俺を見るとほっとしたようで、頬を緩めたのが分かった。
こくりと頷けば、熱はどうだ?と聞かれた。
意味がわからず首を傾げる。
すると、男は、はぁと溜息をついた。
「てめぇ、昨日、高熱だったんだぜ?すげぇ苦しそうだったしな。」
そういいながら、彼は俺にコップを渡してきた。
中身を見るとホットミルクだった。
じっ、と彼を見つめれば、別に何も変なもんは入れちゃぁいねぇよ。安心して飲め。と笑われた。
その笑顔がとても眩しい。
こくりと一口飲めば、甘いミルクの味がした。
美味しい…
久しぶりの暖かい味に涙がでそうになる。
ぐっ、と堪えた。
「そういえばな、その足枷について聞きたいんだが。」
ポツリと零された言葉にドキリと心臓が跳ねた。そうだ、そうだよね。やっぱり聞かれるよね。
言いたくないなぁ。
「と普通の奴は聞くだろうが、俺は聞かないでおく。」
え?
と男の言葉に驚く?てっきり話せ!と言ってくるのかと思った。
「まぁ、俺の考えだが、言いたくない事なんてみんな色々あんだろ。別に言わなくてもいい。逆に、お前が話したいと思う時が来たら話せばいい。」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
嗚呼、なんて優しい人なんだろう。
この人の優しさが心に染みる。ありがとう。そう伝えたい。
だけど、それは叶わない事を思い出した。
「そうだ、名前言ってなかったなァ、俺は高杉 晋助だ。お前は?」
優しい口調で彼が聞いてくるが、俺は黙ったまま首を横に振った。
そうか、彼は高杉晋助と言うのか。
高杉は俺の様子に首を傾げた。
「どうしたァ?」
俺は口元に手を持っていき罰をつくる。
それを見て、高杉は目を見開いた。
「まさか…。」
うんうん、そうだよ。コクコク頷きながら唇をゆっくり動かす。
高杉が分かるように。
《こ・え・が・で・な・い・の。》
続く
アンケート第2位のNo. 1ホストが銀色を拾うお話です。たぶん、長くなる。
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