浮気
「お願い、します」
そう言ったのは、俺。
「シカマル」
「っ、は…い?」
「アスマに怒られても俺は知らないよ?」
「今…更……っ」
「まあ、ね」
そういって笑ったのは、アスマでもなく俺でもない。
これは遊び。
「…ただいま」
鍵を回したら開いていて、小声でそう呟いた。
すぐそこにはアスマがいて、当然ながら不機嫌そうな顔つき。
部屋の光が眩しくて、目を細めた。
外は真っ暗だった。
「どこに行ってた」
「別に…」
「どこに行ってた」
「アンタには関係ねーだろ」
そういうとアスマはこれ以上ないほど眉間に皺を寄せた。
「……」
「もう寝るから」
そう行って横をすり抜けようとしたら、左腕に激しい痛み。
俺に、アスマの手が伸びていた。
「っい………」
「答えろ」
「あすま、痛い」
「…答えたら話してやる」
「……嫌だ…」
大体の想像はついていた。
俺が断ったらきっとアスマはそれ以上強く俺を押さえ付けて、……って、。
腕の痛みは、尋常じゃない。折れる、と思った。
でも現実、アスマはそこまでバカじゃない。
俺を傷つけない、壊さない。
アスマは、何も分かってない。
俺が、アンタの手を振り払わない訳も。
「……いっ…つ」
「…シカマル」
「…ゆう、から…あすま」
そう言った瞬間に、俺の腕からアスマのゴツい腕が離れていった。
そこには、赤黒く手の型がついていて、アスマに気付かれないようにはにかむ。
中で話す、と言うと案外あっさり中に入れてくれた。
ゆっくりと靴を脱ぎ、リビングに入る。
夕食の匂いがした。
アスマが作って待ってくれていたのだと思った。
でも今日だけはそれに気付かないふりをするんだ。
「何処に行ってたんだ?」
アスマがちらりと時計を見、それにつられて俺も壁を見上げる。
2時、だってさ。
あと数時間すれば、また空は明るくなってゆく。
「高校生が出歩く時間じゃないだろ…」
「……悪い」
そう短く答えるとアスマは、また溜め息をつく。
「で、どこにいたんだ?」
俺が顔を逸らそうとすると、アスマは俺の顔に両手をあて、目を逸らせなくする。
アスマが真っ直ぐに俺を見ていて、少しくらくらした。
いつぶりだろうか。
懐かしい、なんて言ったら泣きそうになるから言わないけど。
「……カカシ先生んとこだよ」
俺がそう呟いた瞬間に、アスマが動いた。
ひゅっ、という効果音がしたと思ったら鈍い音が後を引くように鳴った。
じんわり、痛みが広がった。
痛い、なんて呟く間もなかった。
「来い」
「………」
「……来い!!」
アスマの顔が見れなかった。
計画性があったのは認めるよ。それでも、悪気がなかった訳じゃないから。
怒られる為だけにやったんじゃない。
アスマに引っ張られ、寝室に入る。
ベッドに叩き付けられると、上に跨られて動けない。
荒々しいアスマの手が体に触れるまで、ずっと回らない頭で女々しいことを考えてた。
いつも、こうでもしないとアスマは俺に触れてくれないのは、何でなんだろう、って。
(好きだって言ったの、嘘だと思ってんだろ?)
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久々のアスシカ。
やっぱり切なくなってしまいます。
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