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約束は





「おかえり」
「ただいま……って、ここあんたの家じゃねーか」
「もう家みたいなもんだろ?お前もさ」

アスマとそんなやりとりをしたのは22時をすぎた頃。
仲間内でお祝いと称していつもの焼肉屋でどんちゃん騒ぎをしてきたところだ。アスマも覗きに来てはいたのだが、宴会があまりにも長い(ナルトやキバやチョウジが張り切りすぎて朝から晩まで店の予約を取ってた)から、先に帰ったのだった。正直俺も途中で帰りたかったが、なんせ仮にも主役。そう簡単に帰れるわけもなく、結局最後まで残ってしまった。それでもまだ早い解散だとホッと胸をついたのだ。ナルトやキバはとにかく、チョウジが今日張り切っていた理由は少し前からダイエットをしていて、焼肉が三ヶ月ぶりだったからに違いないだろう。

「楽しかったか?」
「まあ、それなりに」
「なんだそりゃ」
グッ…と伸びをすると背骨がボキッと音をたて、途端に力が抜ける。
お前の為の集まりだろう、と言われたけどそんな意識はあまりない。大体同期の誕生日には任務がなければ集まれるメンバーで祝うのが定石ではある。しかしやはりその大概は焼肉屋で、誕生会と称した飲み会である。あ、ジュースのね。

「あのメンバーで集まると異常にうるせーんだよなあ…」
「いいだろ、お前のためなんだから」
「ありゃ8割肉食う口実だ」
「それでもいいじゃねえか」
「嫌だとは言ってない」

ただ、あんた途中で帰るじゃん。そういって口を尖らせると、大人は色々違う仕事もあって忙しいんだよと苦笑いされる。いつもはそんな仕草は子供に見られているような、迷惑をかけているような気がして嫌いだったんだけど、今日は許されるはず。だって誕生日なんだから。

もちろん今から飯を食う胃袋の空きはないので、二人でソファに座ってぼんやりと時を過ごす。年寄りみたいだと言われようが、やはり落ち着いた雰囲気がすきだ。
ふあぁ、と欠伸をした時、アスマに尋ねられる。

「そういやシカマル、家族の方は大丈夫なのか。誕生日なのに」
「ナルトたちと騒いでくるって言ってるから大丈夫だろ。今更家族で祝うような年齢でもねえし」
「そうか…それもそうだなあ」

「なんでアンタがちょっと黄昏てんだよ」

そう聞くと、お前らが成長していくとだんだん俺が老けていくからなあ…と遠い目で笑っていたが、どうにも俺には笑えない。懐かしむように俺を見るその目に、表情に、いつも落胆させられる。

半ば強引に恋人という立場を奪い取りアスマの腕の中を陣取っても、やはり俺はアスマに取って第一は教え子なのだろうか。
別に、嫌じゃない。確かに始まりは教え子と生徒だ。しかも不真面目な、いのとチョウジと共に手のかかる奴。
それでも今は、せめて今日だけは俺を恋人としてみてほしい。別にただ何となく、誕生日だから。抱きついてもキスしても、それ以上の秘め事を重ねても、いつもどこか寂しいような気がしていたから。

贅沢だよなあ、分かってる。でもどうしようもない。相手の心を計算で導くことはできなくて。

「……」
無言で後ろのアスマの胸に倒れかかると、何を言われる訳もなく受け止められた。

「どうした?大人しくなったな」
「いつもだよばーか」
「…やっぱいつも通りだな」

悪態をついてしまうのは、実際の気持ちを知られるのが怖いから。早口でまくし立てて、隙を見られないように塞いで、自分から閉じてるっていうのに俺は貪欲にアスマの愛を求める。なんて滑稽な絵面なんだろうか。めんどくさくて、俺に似つかわしくない。


「……やっぱ帰るわ」
一人で自虐して、柄にもなく傷ついた。ので、あくまでなんでもない風を装いやんわりとアスマの腕のなかから抜け出す。
外は9月というのに肌寒いなんていう言葉とは無縁で、夏でもなく秋になりきってもいない様な中途半端な気温で、ただし歩いて帰るにはちょうどいいかな。

「どうした?泊まってかないのか」
「…誕生日だし、やっぱ」

誕生日だからこそアスマと居たかったんだけど、それは言わない。
きっと今から家に帰っても特にプレゼントなんてもんは無いだろうし、寧ろ母ちゃんは、「私がアンタを産んだ日なんだからあたしに感謝しなさいよ!」なんて言うかもな。

「……」
「え?」

出て行こうとする俺をアスマのゴツい腕が、俺の好きなその腕が俺の手を引き留めていた。

「…なに?」
「…いや、特になにがある訳じゃないんだが」
「あっそ、じゃ……」
「あ、その、まあ…待て」

歯切れの悪いその口調で俺を引き留めるアスマを見て、俺の心臓は脈打つ。やっぱオレ変わってんのかな。男で、ゴツくて、ちょっとおっさんで、髭がもさもさのこの人が一番好き。

「…やっぱ泊まってく」


そういうと、頭上に大きくてゴツい手がおりて来てそのまま数回撫でられる。
やっぱり子供扱いみたいだよな、それでもやっぱり俺はアスマが。
その手が俺の髪を結う紐をスルリと引き、バサっと俺の髪が解ける。アスマはいつもこの解く瞬間が好きだっていう。


「来年の誕生日はどうする?」
「なんで今日から一年後の話をすんだよ」
「いや、約束を取り付けておこうと思ってな」

来年のお前の誕生日も、この時間は俺にくれるか。

なんて、そんな言葉はもしかしたら初めてかもしれない。二つ返事で了解と答えるのが何だか癪で、焦らしてやろうなんて言う考えも、いきなり熱くなった目尻の所為で結局は役に立たなかった。

「……お前が泣くのなんて初めて見た」
「…う、るへぇ」
「賢いお前なら言葉にしなくても分かってると思ってたんでな」
「………」
「分かってる分かってる、俺が間違えてた」

好きだ、と告げられ、照れを隠すように「プレゼント、何が良いのか分からなかったから明日何か買いに行こう」というアスマに首を横に振った。
元々物欲は薄いほうだ。それに、今の俺にはさっきの言葉と来年の誕生日の予約で十分。
くっつけられた額と額が、痛くて近くて。

「…そのかわり、来年の今日の約束破ったらチャクラ刀千本飲ませてやるよ」
「お前には珍しく非現実な話だな、怖いけど」
「たまにはいいだろ?」
「…そうだな」
笑った俺に、やっぱりいつもと違うと呟いて、今日は偉くご機嫌だなと揶揄された。

「ハッピーバースデー、シカマル」
「おー」

ご機嫌だ、なんてあんたといるんだから、当たり前じゃねーか。どうせなら、そう告げるのは来年に取っておこう。









「シカマルー!!もう帰るのかってばよ!?」
「ああ、悪ぃな…この後用事あんだわ」
「そん年になって、母ちゃんが怒るからー……なーんて理由じゃねえだろーなァ!」
「バーカ、ちげえよ」

例え主役が途中退場したって、俺らのなかじゃ構いはしないのだと、去年は知らなかったこと。まだまだ騒ぎ足りないようなナルトとキバを尻目に、俺は一足先に店を出る。チョウジだけがその理由を知っていて、心配そうな目で見つめてくるけれど。
ひらひらと手を振るとチョウジは困ったように笑っていた。

時刻は短針が10を示す少し前。約束は、死んでも守るもんだろ。なあアスマ。

「アンタは、来年のこの日この時間も空けておいてくれ、っつーのかな」

アスマの家にはもう入れないし、そこにアスマがいる訳でもない。それでも自然に足は動き、俺の家とは逆方向に進んで行く。

「っくソッ……んで………」

約束を破ったら、なんて約束は守る体あってのもので、今更どうすることもできなかった。
別に、あんたが完全に俺のものにならなくても多分良かったんだ。弟子でも教え子でも、なんだって構わなかった。あんたがいてくれたらそれで良かったのに。

ひとの少ない路上で、塀に凭れてうずくまった。約束が叶えられる日は、何年後の今日でも二度と来ないのだ。











*


2012鹿誕企画様に提出していたもの。
加筆は殆どしてないと思います。公開遅れてすみません…



あきゅろす。
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