平穏、平凡、虚無
「ねぇ、私たちは死んだらどこに向かうんでしょうか?」
「また変なことを考えてるのかい」
「別に変なことじゃないですよ。どうなのかなあってふと思ってみただけです」
今日もいつもと同じ高い空。蒼い木々。無気力な私。優しい貴方。
「そういう時が一番怪しいんだ、君は」
そっと私の頬に触れてきたその手は滑らかで綺麗で、いつも羨ましかった。その手を頬から引きはがし、自分のそれに重ねて、絡ませた。
「生きてるって、どういう状態のことを指すんでしょう、息をしている状態。心臓が脈打っている状態。」
「…さあ、分からない」
「ねぇ、もしどちらも違ったら、なんなんでしょうね。」
「銀朱」
「私、それしかないんです」
「ぎん、」
「毎日起きて、食べて、寝て。息をして。ぼんやり生きてる」
「…」
「なにか起こらないかと待っていても、日々はただ平穏に過ぎていくだけ。代わり映えのない毎日で、わたしは」
「もういいよ」
口づけをされた、でもそれは愛のこもっていないただの口封じ。
そう思うことで、わたしはずっと自分を保ってきたのに。
「もういいよ、悲しいって、言えばいいのに」
反論をしようとしたその時、自分の目から水がポトリ。ポトリ。
なんで視界が歪むのだろう、と、もう私はその訳さえ分からなかった。
ただ、何も言わない彼の肩にグッと顔を押し付けるように固定され、その体勢のままぼんやりといつもどうりに過ぎていく景色を見つめていた。
精一杯の愛を込めて。
どうか届きますように。
2010/3/2 祈織
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