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していいことと悪いこと






「………………」

怠い。なんだよ、体育週三もいらねーだろマジで。一番嫌いな科目だし、いやもう体育なんて科目じゃねーよ、体罰だぜ体罰。
そう心の中で呪いながら、目に見えない早さで飛んでくるボールを眺める。
基本的に動くのは嫌いだ。教室では大抵寝てるし、移動教室でさえ面倒臭い。体育は大の苦手で、運動会はさいあく。
なにしろ俺は球技も走りもできない。今はみんなの要望でドッヂボール中。嫌いに変わりはないが持久走よりマシだから仕方ない。


「………」

「奈良ぁ、テメェ動きやがれっ!」

「うるせーよ、避けてんじゃないっすか」

「ボール取りに行けよ!」

「めんどいんでいいです」


なんだお前、やる気ねえなあ、なんて行ってくるのはこのにっくき体育の教師だ。

「俺は犬塚センセみたいに運動神経ないんすよ」

コートの端に立っていれば以外と当てられないものだ。ずっとそこで俺が突っ立ってるもんだから見兼ねたこの教師に絡まれてる訳だ、今。まあ俺はこの人を教師と思っちゃいねぇが。

「シカマル俺とポジションかわれよ、見てるだけってかなり暇」

「アンタが入ったらみんな容赦なく当てられるから嫌がるでしょーよ、んで学校でシカマルって呼ぶな」

「いーじゃん、誰も気にしねーよ多分」

そう、なのだ。こいつは只の体育の教師ではなく、俺の恋人。何が悲しくて教師と付き合ってんだかは忘れた。しかし教師と生徒、ましては男同士だ。おおっぴらには出来るはずもなく。

「…バレたらヤバいのはアンタの方だぜ?」

「バレねえって、心配すんな奈良クン」

どこからそんな自信がやってくるのかはまったくもって分からない。
ケラケラと笑う姿を見てると思わず脱力してしまう。この人相手じゃ背徳感もなにもない。まあ別にそういうスリルを求めてる訳じゃないんだけども。


「ほら、とっとと混じってこい」

トン、と軽く肩を押され、渋々ドッヂに熱中しているナルトたちの輪の中に。まあそこに移動したからといって俺が積極的に取り組むわけもなく、チョウジの後ろに隠れて、俺の横を掠めていくボールをただただ目で追っていた。

(だりい……)

ときたまわざと俺に当てようと外野からボールを投げつけられるときもあるが、俺を狙うのは大抵弱いやつだ。俺だったら当てられるかも……と思われてるのだろうが、まあ別にボール恐怖症とかではないのでそう早くないボールなら取れる。ただ俺がキャッチするたびに驚いた顔やバツの悪そうな顔をされるのは気に入らないけど。


ボール増やすぞ、と後ろの方から犬塚せんせえの声が聞こえた。俺はそれをスルッと聞き逃していて、手に持っていたボールを味方の方の外野まで投げた。

「シカマルっ、あぶねぇってばよぉ!!」

ナルトの興奮した声が聞こえたと思ったら、後ろから後頭部に衝撃。びっくりして声が漏れそうになったがそれは自分の歯と歯の間に挟まった舌によって押さえられた。

「い゛っ…………!?」

後ろから微かな歓声と、頭はセーフだろっ…と主張する俺のチームの奴らの声。
俺はと言うと、噛み切らんとばかりに痛め付けられた舌がひりひりして、口の中から鉄の味。実際に切れた訳ではなさそうだが。

何故か頭ではなく口元を両手で覆う俺に、例の体育教師が近づいてきた。

「なに、どした?」

片腕を掴まれコートから引っ張りだされた。喋るのも痛い。腕を離そうとしないので、仕方なく涙目で口を開いた。

「ひは、噛んら」

必死で伝えようとするが、上手く発声出来ず伝わるか否か微妙だ。

するとそいつはニンマリと笑い、へえ…と呟いた。俺の腕を離すことはせず、体育館の出口の方へ引っ張られる。

「奈良が顎骨折したらしいから保健室に送ってくるから、テキトーに授業終わったら帰っていいぞ!」

ギャハハ、と汚ねぇ笑い声がして大丈夫かシカマルぅ、と野次の様な声が俺を刺した。別に顎なんて骨折してねぇし。なに嘘ついてんだよ、舌噛んだだけだしなんにもないし。
しかしその言葉たちは俺の滑舌がとてつもなく劣化している口から飛び出る訳がなく、唯一俺達の仲を知っているチョウジがこっちを見て苦笑いをしてることに顔をしかめた。



そのまま引きずられるように体育館を後にして、校舎に入り保健室を通り過ぎる。

「はにひへんはよ」
何してんだよ、と紡ぎたかったものは見事にハ行にハイジャックされて、日本語にないものになった。それでも伝わったらしく、俺の手を引きながら振り向いた。

「屋上」

「はんへ?(なんで)」

「サボろーかなぁ、と思って。シカマル楽しくなさそうだったし?」

教師がそんなんでいいのか、とつくづく思う。拉致られたのは初めてではないけどな。


「キバ、べろ痛ひ」

二人きりの時は名前で呼ぶ。それを忠実に守ってる俺。少しましになった痛みと滑舌を訴えるとそいつはニヤニヤと笑って、

「俺がちゅーして治してやるから心配すんなって、シ、カ、マ、ルくん?」

「………!!!」



なんでこんなに強気なのだ、ココでは。家でいる時はそれはそれはヘタレでどちらが年上か分からないのに。それでも俺は学校で騒ぐタイプではないから、ここではキバの言うことを聞いてやっているのだ、あくまで仕方なくだ仕方なく!


「………バカじゃね、もう治ったし痛くない、………し」

「まあまあまあ嘘吐くなって。いーじゃん学校で戯れるのもたまには?」

軽い足取りでキバに引っ張られながら、まあいいか授業サボれたし、なんて考えるのが俺の悪い癖。年中欲求不満の体育教師キバせんせえのことだから、外でヤるのも青姦みたいで燃えるじゃん、とか言い出しそうだ。


(………まあいっか、考えるのめんどくせぇ…)

背徳感と言えば綺麗すぎるが、スリルと言い換えたらすこし楽しいかも知れない。
ストン、とコンクリートの上に腰を下ろしたキバの隣に腰掛ければ、顔を引き寄せられて嫌がる隙もなくキスされる。



(………やっぱ痛い、)


吸われた舌がヒリヒリと痺れた。けどまあ、珍しく気分がいいから小言はあとでにしといてやろう。





















キバせんせいとシカマルくん。最後ぐだぐだだなー
2010/1/12



あきゅろす。
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