キャンセル不能だから
『悪い…』
「いーよ、また今度で」
『絶対埋め合わせすっから』
「…うん、じゃあ」
プツ、と電話を切った。
今月何度目かのドタキャン。
どうせ今日も行けないだろうと予測はしていたので出かける用意はしていない。
案の定、待ち合わせ三十分前にかかってきた電話。
その声の主は間違なくアスマで。
受話器の向こうで、思ってもない謝罪の言葉を紡いでいるアスマ
そして、それを許すオレ。
どっちもどっちだと思う。
もうダメだと気付いているのに、別れたくなくて。
アスマだって、アンタの浮気にオレが気付いてることくらい感づいているはずなのに何も言ってこない。
まあ、どっちが浮気なのかは知んないけどさ。
分かってるつもりではいた。
アスマの相手はきっと綺麗な女性で、男のオレとは扱いが違う。
最近は月に二回会えるか会えないかで、今までは毎日と言って良いほど呼び出しの電話が掛かってきたのに最近では謝罪の連絡しかない。
自分の部屋で蹲ってガシガシと頭を掻いた。
どうしてアスマのことになると上手くいかないのか。
ドラマや映画のラブストーリーなんて、でっち上げで面白くないから嫌いだった。
でも今の自分なんてその類の主人公にそっくりじゃないのか。
「こんなんじゃダメだよなぁ……」
行く予定だった店。
昼のファーストフード店や、いつも人が並んでることで有名な生うどん屋とか期間限定酢昆布ソフトとか、
店じゃねーけどちょっと遠くのデカい図書館とか、見たくもない映画とか
提案するのはオレで、断るのはアスマ。
オレの中ではもう既にその方程式ができていたはずなのに
「うん、オレ」
「今度の土曜の夜さ、」
「飯連れてってくんねーかな」
「予約とか、オレがするからさ」
オレの持つ受話器の向こうでは、うんうんと相槌を打つアスマの声。
半分以上を聞き流してることを、オレは知ってるんだ。
『何食べに行きたいんだ?』
「アスパラガス専門店にしようぜ」
最後にアンタの辛そうな顔を目に焼き付けようと思って。
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アスマはアスパラ嫌い。
オフィシャルキャラブック参照。
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