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俺のヴァージンロード




「君のこと、少し調べさせてもらったよ」

 そう言って、男は唇の端を吊り上げた。

「父親が経営してた会社が莫大な負債を抱えて倒産、一家は離散。蒸発してしまった父親の借金を、君が肩代わりしてるけど、所詮業界での君の評価は二流半ってところ。いい仕事は当然回ってこない。で、そろそろ、足元に点いた火がヤバくなってきてるってこともね」

 黙って話を聞いている女の、細く竦めた肩が、大きく震えた。



「──助けてあげようか?」



 男の潜められた声に、女が弾かれたように顔を上げる。何故?という疑問があからさまに浮かぶ目を見て、男は低く笑った。

「君もいい大人なんだからわかってるよね。無償の好意なんてものは、この世界にそんなにあるもんじゃないってこと。……交換条件の話に移ってもいい?」




 苦しかった。
 本当に、苦しかった。
 倒産、夫の蒸発と、立て続けに襲いかかった不幸が、元々身体の弱かった母を、床から離れられなくしていた。働けない母の代わりに、まだ高校生の妹も、寝る時間を削ってまでバイトをし、家計を助けてくれてはいるが、どれだけ働いても、生活を切り詰めても、借金は利子が嵩むばかり。元金は一向に減りはしない。
 例え悪魔に魂を売り渡してでも、女は金が欲しかった。

 条件の内容など、確かめる必要もない。今更これ以上、何が悪くなるだろう。


 男の淡い色合いの瞳に映る自分が、微かに、けれどもはっきりと頷くのを、女はまるで他人を見るような思いで見た。






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