[携帯モード] [URL送信]

Novel
もし愛していると言ったらあなたはどんなふうに蚩うのですか(部下雑)

「可愛いねえ、」

そう言ってくつりと笑った組頭に、視線だけで返す。何故って、自分がこの人に口で勝てる筈がないことを過去何度かの経験で俺は理解しているからである。
こちらは真面目に面と向かって声をかけるのに、いつも気まぐれな猫のようにするりと逃げていってしまって、結局本質には触れられないまま。

「お前は可愛い、ねえ諸泉、」

意味がわかりません何処がですかこの私の何処が可愛いと言うのですかそれに私は貴方からそんな言葉を待っているのではありません気づいているのなら答えてください、と喉まで出かかった言葉を飲み込んで。
俺はもくもくと組頭の包帯を巻く、胴から腕、最後に顔。

初めてこの人を見た時は本当に酷い有様だった。タソガレドキに入ったばかりの頃、その人は俺の前に現れて、にたりと笑ったのだ。そう、調度今のように。
いつから変えていなかったのか包帯の色は変わり只の布と化し、もはやその役割を果たしてはおらず、わずかに覗く皮膚も任務で負ったらしい傷やら火傷やらで埋め尽くされていて、しかもそれらは全てその状態のまま放置され、肌は酷く膿み焼け爛れて異臭を発していて。どうしてこの状態で生きているのかと不思議になると同時に、激しい異臭に本人の目も気にせず激しく顔をしかめた記憶がある。こんな奴がタソガレドキの組頭で、自分はこれからこいつの下で働くのかと考えて、とんだ忍者隊に入ってしまったものだまあ自分には関係ないか、とその時俺は一人思ったのだったか。

その頃からこの人は変わっていない。変わったのは俺が手当をして包帯を巻くようになったおかげか、体の傷が少しマシになったくらいの物で(それでも知らないうちにちゃっかり新しい傷が増えていることもあったりするのだ)、それ以外はそれこそ何も。
何故なら俺はあの頃も今も、あの人から本心を聞き出すことは出来ていないからで、あの人はあの人でそれを分かった上で俺の求める答えをくれたことは無いから。昔はそれがそれはそれはもどかしくそんなことがある度に苛立っていたが、今はそれがもう意図的であることくらいは分かる歳にはなったので、俺も少しは成長したのだろうか。

「くみ がしら、」

「なに?」

す、と包帯を巻き終えたばかりの組頭の頬に手をそえる。組頭は拒みはしないがその代わり促すこともしない。ただ、面白そうににこりと笑うだけ。

「 もし、俺が 」

包帯で真っ白く覆われた頬をなぞった俺の手は、そのまま重力に従ってゆっくりと俺の膝に戻る。
ちらりと組頭を見ると、嬉しそうに俺を見ていて。俺はと言えば自分から言葉を発したにも関わらず、それ以上紡ぐ言葉が見つからずに、どうしようかと思考を巡らせてふと視線を下げたところで、フリーズした。

「……は、」

「……」

「、あっ…え?組頭っ?」

何故ってそれは、組頭の手が膝の上にある俺の手に重なっていたからで。けれど酷く驚く俺とは対照的に組頭は先程からにこにこと笑みを浮かべるばかり。
そのまるで察してごらんと言わんばかりの表情に、俺は溜め息に先刻飲み込んだ言葉をそうっと吹き込んだ。


( もし、俺が )
(あなたを愛していると言ったら、あなたは)

(私はお前のそう言うところが、本当に可愛くて仕方がないんだよ)


するりと、黒猫が逃げた。


END.




お互いどう思ってるか腹の探り合い、みたいな。
諸泉は組頭のこと好き、組頭も多分好き。死ぬ時は諸泉に殺されたいなあとか思ってる。
ただ組頭は言わない。まだなのかずっとなのかはわからないけど。そのせいでそのうち探り合いが面倒臭くなった諸泉が組頭に猛アタックを始めます。
そしてどうやら私は組頭の傷を描写するのが好きらしい←


.

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!