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Novel
蹴飛ばせ哀愁(留伊)


かちゃかちゃ、
かちゃかちゃ

人って言うのは不思議なもので、生まれてくる時は物凄く力を使うのに、死ぬ時は驚くほどあっけないんだ。
ストン、って感じ。そう言って空を切る真似をすると、留さんに酷く驚いた顔をされた。

かちゃかちゃ。
その音が欝陶しくなって、僕は弄っていたコーちゃんから手を離す。

それにね、と続けて、
自分の意志では生まれてはこれないけれど、死ぬ時は自分の意志で死ねる時も、ある、よね…
と、最後のほうは尻窄みになってしまったけれど。

「…伊作、」

「なに?」

「しんどくなった?」

「…うう、ん」

否定とも肯定とも着かない返事を返す。だってほんとうにわからない。

そしたらぎゅうと抱きしめられて、ああ暖かいと素直に思った。コーちゃんとは違って、留さんは暖かい。僕はコーちゃんも好きだけど、やっぱり、留さんも好きだなあ。

「なあ、いさ」

留さんは僕をあやすように、背中をぽんぽんと叩く。普段武器を扱う人とは思えない程優しい手つきに、自然と体から力が抜けた。

「今度の休みに、久しぶりに町へ出よう。…それで、」

それで、と留さんはもう一度繰り返した。

「団子でも饅頭でも食べて、」

「いさの欲しいって言ってた薬草見て」

「…、うん、」


「あとは、えーと…、俺の不足してる用具品買い足ししないといけないから、付き合ってくれるか?」

「うん、」

「で、帰ってきたらおばちゃんの夕飯食べて、一緒に風呂入って」

「…うん」

「そしたら、ずっと布団でくっついてよう」

「…セックスは?」

思わずくすくすと笑ってしまう。

「…いいよ、いさが嫌ならしない」

「留さん、明らかに顔が納得してないよ」

「うるせー」


ぎゅうぎゅう。
ちょっと苦しかったけど、留さんの思いが、暖かさが、表面に触れるだけだったさっきとは違って僕の中に染み込んでくる感じがして心地が良かった。
まだ僕は死んでない。だって、僕の体はこんなに暖かい。

僕は留さんの腕の中で、笑いながら少しだけ泣いた。


(だから、生きていよう)



おわり


たまに病む伊作。
留さんは低学年のころ伊作をいさって呼んでて、六年生になってもたまに名残でぽろっと呼んだらいい。

お題、修羅場1567さまからお借りしました。



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あきゅろす。
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