Novel
毒だって思いのままに!(文仙)※
触れるな、触れるな、私に。私の愛しいお前のその掌で、私に触れてくれるな。
私は最近、お前の算盤を持ちすぎてゴツゴツした、けれど酷く熱い手に触れられるというただそれだけのことで、気がおかしくなってしまいそうになる。まるで、毒を仕込まれたように、体の芯がチリチリと熱く疼く。
お前に真っすぐ見つめられ、低い声で名前を呼ばれただけでもう私は、ああ、いつからこんな女々しい考えが頭を埋めるようになってしまったのか。
―――なあ、文次郎。
だから
抱き締められなどしたらもう、
(我慢は得意な方だと思っていたが、どうやらそれはとんだ検討違いだったらしい)
お前の匂いが
(汗臭い、といえばそうだけれど)
それすらも愛おしく感じて、もう私は一体どうしてしまったのだろうと
ちらりと文次郎を見上げると、私より遥かに動揺した文次郎がいて、
どうして俺はお前を抱きしめているんだと、まさにそんな表情で
ああそうか、お前はただ私を呼び止めるつもりだったのだと、別に抱擁をしようとした訳ではないのだと思い出した。
ではどうして私達は抱擁しているのだろうと考えて、解らなくなってふと笑った。忍びとして学ぶ教科書よりも、こちらの方が遥かに難しい。
「…文次郎」
「、仙」
私を呼ぼうとする愛しいお前の唇を塞いでやった。
(…私は我慢は得意ではないのだ)
かさかさした唇に吸い付けば、ああ、また、体中に毒が回るような、そんな。
(けれどお前と接吻しなければ、私はどちらにせよ死んでしまうのだ)
それならば、お前のその毒に体の隅まで犯されて死んでやろうじゃないか。
(――文次郎のくせに、)
いつの間にか主導権は文次郎に持っていかれていて、私はされるがままに唇を貪られる。
「…ん、っふ…」
「…仙蔵、」
背中をはい回る、撫で回すお前の掌が暖かくて、心地良くて仕方がない。
――今ならば、深く冷たい水に沈んでも良いかもしれない。お前の体温があれば、きっと、私はいつまででも生きていられる。
(――文次郎のくせにっ、)
口づけで煽られ、毒が回った体に、もはや理性は存在しなかった。
私は文次郎に縋り付き、文次郎は私を床へと倒す。
「、っは…ぁ…」
深く吸われ、弄ばれていた舌を離されて空気を吸い込んだと思えば、すかさず文次郎の舌は私の弱い耳元に移動していて、結局息をつく間もなく甘い声が口から零れる。
ざらざらとした厚い舌の感覚と、わざとらしい水音に犯されて、熱くて苦しい反面、それが酷く心地良くて、気が狂ってしまいそうになる。
けれどそんなときも口から零れるのは、私を狂わせている奴の名前で。
もんじろう、もんじろう、もんじろう、と
普段とは違う甘い響きを持って声になる。
なぜこんなにも必死に私は奴の名前を呼んでいるのだろう、しかも女のように愛撫されてそれに善がって、さぞかし滑稽だろう、今どれだけ私は醜い顔をしているだろう、とそんなことを思考が掠めたが、畜生、大きな掌で服をはだけられ、首筋に吸い付かれればそれどころではない。
「ぁ、あ、っ…!」
体がびく、とのけ反って自然と顔が上がる。すると当然文次郎と視線が重なって、――ああ、その余裕のない瞳には、私が写っていた。
(ああ、それで良い、)
私もきっと、なあ文次郎、今お前と同じ顔をしているだろう。何故って私の頭は今、悔しいがお前のことで一杯だから、と。
(…溺れてしまえ、)
愛おしくなって、私の無い胸を愛撫する文次郎を強引に引っ張って口づける。ああ、溺れてしまえば良い、私のこと以外は何もわからなくなってしまうくらいに。
「…好きだ、」
「ああ、」
「好きだ、もんじろう」
(けれど溺れてしまったのはきっと私の方で、)
愛を囁かなければ不安で、涙すら零れそうになる。お前の瞳に私が写っていれば安心できる。まるで、そう、女のような、私。
(――なんて滑稽な、)
そう思っても、チリチリと指先まで毒が行き渡れば、ああ、もう私は文次郎、お前の物だよ。心まで。
熱くて苦しいこの毒に蝕まれる感覚は酷く切ない、なあ、文次郎、
(――それならばいっそのこと、私を殺してくれないか、)
――ああ、こんなことを考えてしまうのは、きっとお前の毒のせい。
どうか、どうか、責任を取ってください。
「………仙蔵、」
「…もん、じろう…」
「… 、」
「…知っている」
――否、当然だ。
(さあ、さあ、狂った私にもっとたくさん毒を頂戴!)
おわり
仙蔵が生きるのも死ぬのもぜんぶ文次郎の思うままになるくらい、仙蔵は文次郎に溺れきってるんだよみたいな話し。
でもきっとそれと同じくらい文次郎も仙蔵が好きだといい。
だからきっと文次郎は、あいしてる、って言ったはず。
仙蔵は口では当然だって言ってるけど、心の中ではすんごいこと考えてる、みたいな。
………どうしようこれ(聞くな←)
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