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02.



「ユナ、今度はあなたの番。あなたには『血の付いたコート』と『髪』を対価として払って貰うわ」

「髪は女の子にとって大切なものなのにーー」

近くにいた金髪の青年が呟けば、魔女に睨まれてしまう。


(さすが、次元の魔女。本当に大切なものを理解している)


コートに付いている血は大切な人々のもの。それだけが、今の彼女にとって彼らとの繋がり。そして、憎しみとしての力を作り出す。

そして、髪はこの体の力の源。髪を切ってしまえば、力を半分奪われてしまうようなものだ。

しかし、今はそんなのに構っていられない。


侑子は先程、黒鋼から対価として受け取った銀竜をユナに差し出す。



「なにすんだ、てめぇー」


当然、怒るのは持ち主の黒鋼である。


「これは対価として貰ったもの。どうしようと私の勝手よ。まあ、異世界に行くのを諦めて、返して欲しいと言うのなら別だけど」

「…チッ」


そう言われてしまえば、何も言い返すことは出来ない。ただ、黙って銀竜のこれからを見守るしかない。



ユナは侑子から刀を受け取ると、スッと鞘から抜き出す。
鞘を地面に置き、右手で刀を握り、もう片方では腰まである長い髪をまとめ、迷うことなく銀竜を首元で束ねた髪へと宛がった。そのまま刀を一気に引く。

それとともにはらはらと落ちていく藍色の髪の毛。長さは肩程までになってしまった。

切った髪と手に持った刀は、そのまま侑子に渡す。
着ていたコートも差し出しそうとするが、やはり心惜しい。思わず指に力が入り、渋ってしまうが"願いを叶える為だ"と何度も己に言い聞かせ、腕を前にいる人物へと伸ばす。



「あなたの対価、確かに受け取ったわ」


女は人を探す為に世界に行きたい、その願いを叶える為にコートと髪を支払った。



その後、黒い服を着て眼鏡をかけた少年に連れられてやって来た生き物。耳はうさぎのように長く、垂れ下がっていて、全体的に丸く額には石のようなものが付いている黒と白の対なる二つの物体。



「侑子さん…、これは?」

ユナはじっと不思議な生物を見つめる。



「この子の名前はモコナ=モドキ。あなた達を異世界へ連れて行くわ」

「じゃあ、これで次元を渡れるんですね」

「そう。だけど、モコナは異世界のどんな世界なのかまではコントロールできないわ」

「と、言うことは私達の願いがいつ叶うかは運次第…ですか」

「けれど、世の中に偶然はない。あるのは必然だけ」


侑子の言葉がユナに重く伸しかかる。


『あるのは必然だけ』
そう、全ては決まっている。



「私達が出会ったのもまた、必然なんですよね」


呟いたのが侑子にも聴こえたのだろう。小さくこちらに笑みを向けてきた。



「では、行きなさい」


侑子が手のひらに乗せたモコナを掲げると、最初に次元を移動して来た時のように周りに風が吹く。同時にモコナの体から大きな翼が生えた。

強い風に煽られ、願い求める者たちはモコナの口の中に吸い込まれて行った。



「…どうか、彼らの旅路に幸多からんことを」


彼らが消えて行った空に思いを馳せる。



(――必然の出逢い)



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あきゅろす。
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