00.プロローグ
どこまでも広がる真っ白な空間に一人の女が立っていた。
そこには女と足下に幾つも折り重なるように横たわる物体。ただ、それしか見当たらない。
横たわる物体を中心にして赤い液体が辺り一面に広がっている。
それは血だ。
体から流れ出したばかりなのか、血は温かく綺麗な色を保っていて。真っ白な空間にその赤はよく映えていた。
血は彼女の顔にも、纏っているコートにも飛び散っていた。
しかし、彼女が気にする様子はない。
「…ごめんなさい」
彼女は一言呟く。
その声は震えていて、愁いを帯びている。
なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。いや、『なぜ』というのは間違っているのかもしれない。全てはこうなると決まっていたことだから。
瞳からは涙が溢れ、頬を伝って流れ落ちる。
「私が…いなければ…、彼らは死ぬ事はなかったのに…」
彼らを殺したのは、彼女の存在。幸せに暮らしていける訳がない。そんな事分かっていた筈なのに彼女は幸せを願ってしまった。
この世界でこの国で、ここで出会った人々と生きていきたい、と。
この先に残酷な未来があるということを知っていたのに。
そう、これは未来を変える力を持たなかった非力な彼女が背負うべき罪。
「おやすみなさい…。彼らに安らかな眠りを」
そっと胸に手を当て、瞼を閉じる。そして、小さく小さく紡がれる言の葉。それは魔法の呪文。言葉に合わせるかのように、彼女の胸から小さな光が溢れ出す。
溢れた光は小さな光の玉となり、手のひらの上でふわふわと浮いている。それはまるで人の魂のようで。
「私の願いを叶える為に…」
光の玉を憎悪のこもった目で見つめる。その瞳に映すはどんな願いか。それは誰も知ることはない。
ただ一人、これから出逢う女性以外は。
「全てを時が来る前にやらねば」
手のひらの上の光は応えるかのように、輝きを増す。直後、彼女の足下に魔法陣が浮かび上がった。魔法の力なのか。足下から風が吹き荒れ、彼女を包み込んで行く。
それと共に彼女は姿を消した。
(―旅の始まり―)
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