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記憶の彼方
異形との出遭い
「で、着いたのか俺達?」

四人が『トランス』に乗って意識を失った後、限りなく広がる砂地に立っていることに全員が気付かされた。
此処に来てからようやく凪が本音を口にする。

「というか、近くに何もねぇよなこれ」

「えぇ、何もないですね」

辺りをきょろきょろと見回す塰樹の問いに、突っ立っている亜里華がすぐに答えた。
幸い見晴らしは大変良いのだが、草木は全くないようでどこを見てもただ一面に砂漠が広がっているだけである。

この状況に呆れ返った明音が一度砂地を蹴った。
すると足元で砂煙が舞い、それが彼女の黒いショートブーツに降りかかって茶色く汚れた。

「何なのよもう!留奈の元に連れてってくれるんじゃないの!?」

「そりゃあ世界には連れてってくれんだろうけど、場所指定までは言ってなかったし……!?」

そこで凪の言葉が突然途切れた。
明音が今度は何よ、と横目に三人を見ると、彼等は明音の後ろに指をさしつつ後ずさりしている。
誰もが顔を青ざめさせていて、明らかに何かに恐れを抱いているように見えた。

「ぁ、明音…後ろ…」

明音が後ろを振り向くと、いつの間にかそこに人間の五倍くらいの大きさの人獣らしい化け物が彼女を睨んでいた。
頭には角があり、二つの鋭い目が明音を硬直させる。
悲鳴をあげ、無造作に体を縮めて両手を頭にやる明音を狙って、化け物が片手に持っていた大きな斧を振り上げた。

「明音さんっ!!」

亜里華が叫びながら、突然両手を前に出して構えを取った。
化け物を何とかしようとそれに向かって突撃しようとした凪と塰樹はその構え方に足を止めてぽかんとする。

「亜里華…?」

すると亜里華の両手から吹雪が巻き起こり、それが化け物に襲いかかる。
近くにいた凪や塰樹に少量の氷の礫が飛び散るが、彼等はそれを気に留めずにぽかんとしながら亜里華に視線を送っていた。


やがて吹雪が止むと、そこには氷漬けになって身動きが取れなくなった化け物があった。
少年二人は我に返ると亜里華の元に集まって、彼女を興味深そうな目で見ている。

「すげぇ亜里華!」

「今お前何したんだよ!?」

ようやく明音も立ち上がって衣服にこびり付いた砂粒をはらい、一度ふぅと嘆息した。
しかし亜里華はぽかんとしていて、首を横に傾げるだけだった。

「いえ、何か無意識にやってしまって…」

「へ?」

その返答に二人は怪訝な顔つきになりながらも、同じように首を傾げる。
すると突然空から声が降ってきた。

「君達何してるの?」

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