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記憶の彼方―氷空戦記―
少女の誕生日会
「てぇい!」

ボウッという音と共にケーキに立てているロウソクが自然発火し、静かに燃え始めた。
少女はその様子を暫く見つめた後、天井を仰ぎ見る。


「……二十九回目………やっと成功したぁっ!」


真顔を綻ばせ、両手をあげて万歳三唱する彼女はやり終えた後もケーキを見る度に口の両端を更に吊り上げ、にやにやする。

「よぅし、これで焔俐に出された課題クリアしたっ!準備万端だねっこれで!」

また彼女は先程から誰もいないログハウスの中で独り言を言い続けながら、次に市場で買ってきた水色と銀のモールで部屋に飾りをつける作業に入る。

「………はぁ〜何で水色しか無かったんだろ……赤色にしたかったなぁ」

何とも微妙な色合わせを見て、改めて少し肩を落とした少女は次に先程完成させたケーキを見て目を半開きにしながら笑みを引きつらせた。

「しかもこれ……『架波誕生日おめでとう!』って何で私自身でお祝いしてんのって感じで……凄く惨め…」

架波はテーブルに置かれた一枚の紙切れを手に取って確認する。
そこにはかなり粗雑な字で『必勝!告白でハッピーエンドになる為の五つの大作戦』と書かれているが、かなり的外れなことをやってないかと思い、見直しにかかろうとする。

「やっぱりあのこと焔俐に話すもんじゃなかったな……」

彼女が溜め息をついたその時、後ろでコンコンとドアを叩く音がした。慌てて計画書を折り畳み、上着のポケットに突っ込むとドアを開けにかかる。

「あ………」

「こんばんは、架波ちゃん」

夕日の眩しさが目に飛び込んでくると共に何やら聞き覚えのある声がした。架波は腕で光を遮り、ようやくその姿を確認した。

「……柊さん!氷殀!」

そこには両手で薪を持ち、にこにことしている茶髪の青年と銀髪の仏頂面で彼女を見る青年が彼の後ろに立っていた。

「マドモアゼル、お誕生日おめでとうございます」

ドアを閉めてからまず柊が薪を下に置き、懐の黒いステッキに被さるよう引っ掛けた藍色のシルクハットを手に取る。架波が何だろうという表情で見つめる中、彼は帽子の中から一輪の白い薔薇を取り出し、架波に跪いてそれを差し出した。その様子はまるで彼女達がお嬢様と執事のようである。
架波はそれを素直に受け止め、有難うと言ってそれを貰った。貰ってる最中に咄嗟に横目で氷殀を見るが、相変わらず彼はそっぽを向いている。

「失礼ですよねぇ、そこの人は何も持ってきてないんですよ」

同じく彼を一目見て、状況を悟った柊は氷殀に聞こえるよう配慮した上で敢えて彼に視線を向け、更に指を差しながら架波に言った。
氷殀はそれに気付くと、真っ向から柊を睨みつける。

「……誰のことだ」

「架波ちゃんから私を除いて最も近くにいる人へ、ですよ」

しかしながらも柊は平然とした表情でにっこりと答える。

「あ、あの、いいんですっ!私から呼んだのですからそんなことどうでもいいんですよ!」

氷殀が不機嫌そうなことを察した架波は慌てて本心と真逆のことを言ってしまう。

「おや、いいのですか?相当期待されてたと思ったのですが」

柊は顎に手を当てて何度も訊くが、架波はいいんですと言うばかりで彼は納得のいかなさそうな顔をするが、結局架波が押し通し、辺りは異様な静けさに包まれた。


暫くし、架波は何とか話題を切り出さなければと思い、口を開けた。

「あの…」

「か―な―み―!ハッピーバースデー!!」

しかしその声はドアを乱暴に開けて飛び込むように入ってきた者の声に掻き消される。

「……お前、うるさい……」

ドアの近くにいた氷殀が耳を押さえながら呟くがいきなり突撃してきた彼女の耳は全く入らなかったのか、彼女は氷殀を通り過ぎ去る。

「焔俐、貴方は本当にいつでも何処でも元気ですねぇ」

更にはいつの間にか、にこにこする表情に戻った柊さえも通り越し、架波の前に公然と立ち塞がった。

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あきゅろす。
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