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記憶の彼方―氷空戦記―
伝説を知る者たち
何処かの世界、決して光が差し込むことのない世界。


「王、この前知ったのですが」

突然金髪の女性が側にいた紅色の混じった黒髪の青年へ僅かに口を開いた。青年は長い背もたれに妨げられて、彼女はその姿を見ることが出来ない。
ただ一つ、そこら中に邪悪で淀んだおぞましい霊気が彼女を監視するかのように漂っている。

「随分と愚かな話だ。人間に頼られ、それに応えるべく奴等を救った奴が今度は刃を向けられて死ぬ。まるで人間の道具のように使われて、手なずけられん程になれば脅威にならんうちに殺す。人間も所詮、やることは俺と変わらんということだ」

使えるまで使い切り、道具として使いモノにならなければ処分することが彼の奴隷の使い方。例え四覇者でも幾等拝めていようと反旗を持っていようと、その扱い方に殆ど差は生まれない。
何があっても彼が支配する盤上で、討ち取られるまで永遠に踊り続けるだけだ。

「手駒は揃えた、次の世界へ行き珠玉を採ってこい」

ウチもまた、この身がそこから消えるまで、主人(マスター)の手足となっていよう。

「御意」




―――

「……否応なしに殺された、ですか」

漆黒で埋められた夜の空には箒に乗った者達が流れ星のように猛スピードで風を切ったり、あるいはゆっくりとした速さで飛んでいた。
彼は城の屋根の頂から学校の屋外で戯れる魔法使い達を見下ろしていた。豆粒となってどれも同じように見えるが、様々な魔法による一点の光が付いたり消えたりとそれは決して飽きるようなモノではなかった。

「えぇ、今のところ妙なことはありませんよ」

また彼は懐から通信機を取り出し、何らかの呪文をかけて緑色の光で作られた文字を囲ませるとトランシーバーを使うかのようにそこに口を近づけて喋った。だが通信機からは女の声がちゃんと返ってくる。

『そう……そういえばさっき本棚がひっくり返ってね、貴方が昔よく読んでいた本が出てきたわ』

青年は黄色い目をぱちくりとさせた。

「……何をしたんですか貴方は」



「やったのは私じゃないわよ」

電話の向こうではセフィアがきっぱりと言い、仕方がないので自分のベッドの枕の上で寝させている気絶した黒犬をちらり、と見た。

青年はコホン、と咳を一つする。すると口に当てていた左手に何かが付着したような気がした。

「あぁ……そういうことですね」

青年が左手を見ると、掌には呪いに蝕まれた証拠―――血が付いていた。

それを見た彼は絶やさず浮かべていた柔らかな笑みを自身の顔から消した。

『この本こそ、貴方の生き方に影響を与えたといってもいいのかしら』

そしてそれを聞けば再びにこり、と口の両端を吊り上げる。


「さぁどうでしょう」




―――

一方でまた別の世界。
初めて入ってきた者でも落ち着かされそうになる雰囲気を生み出している一室で、青年とも少年とも言い難い者は先程図書館で借りた本を一年振りに読み返していた。
その度に彼の顔は憎悪で歪んでいった。

「……………」

彼は本を読み終えるとぽそり、と呟き椅子から立ち上がる。


「………『狩り』を始めようか」

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