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記憶の彼方―氷空戦記―
小さな首領
風見と呼ばれた少年が楓の指差す先を目で追うと、確かに一人が先程まで彼等のいた場所の方へ止まることなく進んでいた。そしてその場所でぴたりと足を止め、本棚を眺めていた。
背丈は風見よりも低く、それは以前別世界で楓の傷を治した同じくオズフィアンの一人である白装束の少女、雪崩(ナダレ)と同じくらいで、これは楓の臍(ヘソ)辺りまでの高さに大体相当する。
中華風の華やかな衣を身に纏い、豪華で金色に輝く冠を付けた、彼の膝辺りまでありそうな長い髪は絹糸のように繊細で滑らかそうであり、その輝く銀色は一層己の存在を際立たせたようであった。また眉が短く、額にはオズフィアンのマークが簡略化された刺青が彫られてあり、小顔で幼いようで幼くないような、子供か大人かは見分けがつきにくい顔立ちだった。


「………まさか、ボス?」


風見もそれに気付くと同じく動揺する。ついには本で隠さずに、二人は彼を真っ向から見入った。

その後彼は探し求めていた本を見つけたのか視線を一点に固めていた。
すると間もなく図書館で働く若い背の高い男性が走ってきて、彼と数言会話した後本棚の高い位置にあった本を取り出し、それを彼に手渡して去っていった。
その本は色が褪せた、先程楓が持っていた本である。

「あの本……むむっ!」

風見が目を大きくさせて更に顔を近づけようとしたら、楓が彼の口をグイッと引き寄せるようにして抑えた。

「風見、もうちょっとボリュームダウン」

「むむむむ〜〜っ!(口を塞ぐなぁあぁっ!)」

今度は風見の仕草だけで楓は何を言ったか分かったらしく、再びあぁごめんごめんと風見の口から手を退けた。


「何をやっている」


しかし別の声の介入で二人は即座に声がした方を見た。

「……ありゃりゃ、バレちゃいましたね」

「お前がスパイをしたいならすぐにそこの専門へ移動させてやるが?」

楓は彼の目を見てあはは、と苦笑した。
そんな彼に対し、にこりと少しだけ笑みを浮かべた者――オズフィアンのボスもまた楓の目を見上げるようにして返す。

「ちょっ、すみませんでした!こいつは俺が連れていきますんで!」

風見は彼の姿を見ると何度も頭を下げ、楓の襟首を掴むと強引に引っ張って帰った。

「ちょっ風見、ちゃんと歩くからさ……」

いつもなら風見を引っ張る彼だが、珍しく引っ張られる立場に逆転した楓の声はすぐに遠ざかって、聞こえなくなった。



「……………」

残った彼は何事もなかったかのように涼しげな表情で本の中身をぱらぱらとめくって確認を済ませると、受付へその本を貸し出しに行った。

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