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記憶の彼方―氷空戦記―
資料館にて
「……あとはどうなったか、記されていなかったよ」


図書館の中、ガラスで空間を遮られた一室ではパソコンを動かす金髪の顔立ちの良い青年と傍らで彼の座る椅子に片手を置く黒髪の少年の姿があった。

此処は世界の安泰を永続させるべく作られた組織『オズフィアン』の管轄する建物の為、組織の一定階級より上の者以外が入ることは許されず、また階級が上であればある程本部に留まる期間は少ない。その為に建物にはあまり人の気配がせず、当然だが館内は至って静寂を保っている。


「『二人共その後行方知らず』、か……楓が帰った直後に大戦が起きたんだよな」

楓と呼ばれた金髪の青年はこくりと頷いた。そして右手に添えたマウスを動かし、矢印で示されたポインタをある箇所へと持っていく。そこには大戦が起こった年が数字の横に「?」を添えられた状態で見つかった。

「うん、もしかしたら敢えて僕を巻き込まない為にそれまでやらなかったのかもね。僕だけは別の時代の人間だったから……」

楓はインターネットの画面を閉じ、パソコンの電源を切ると席を立った。そして傍らに置いてあった半ばボロボロの書物を持ち、此処を離れる。
少年も後に続き、部屋を出た。


「ずっと思ってたけど、その本かなり古いな」

楓が持つその本の表紙には二人の若者が背中合わせに横向きで立っている絵が描かれてあった。
ちょうど白い服と黒い服を着ており彼等はまるで黒白の如く存在し、しかし対立ではなくそこからは自然に互いに支え合う形が生み出されている。
またその絵柄からは古さが何処となく滲み出ており、この話が伝説だと言われるのも納得してしまうぐらいであった。ただ少し色も褪せていて、所々で変色している箇所が見受けられるが、保存が良かったのかその年代、つまり今から大体千年前に作られたモノにしては品質が良い。

少年が楓からその本を貰い、ぱらぱらとめくってみたが特に破けたりしている箇所は見つからず、宝物として扱っているのかと思ってしまいそうになる程であった。

「……何かこれ、一年おきに貸し出されてないか?」

ざっと活字の詰まった中を見た後、裏表紙の裏に五枚重ねて貼られた貸出履歴書を見た少年はすぐにそれに気付く。日付が変わっているのは年だけであり、月日は全く同じでそれが延々と今日に至るまで並んでいる。
そしてその日付は、ちょうど今日に値する。しかしまだ今日の日付の判子は押されていない。

「もしかしたら先祖代々が借りてるんじゃないかな。『必ずこの日にはこの本を読みなさい』みたいな感じで」

楓はとある箇所で歩いてた足を止めると、それを本来あるべき本棚に戻した。

「にしてもよく七十五年も続いてるよなこんな伝統。守ってる奴の顔とか見てみたいもんだっ!?」

少年が呆れ気味に喋っていると楓がいきなり彼の口を押さえた。

「誰かこっちに来るよ」

「わ、分かったからその手をどけろ!」

楓がごめんごめんと少年の口から右手を離し、あまりにきつかったのか彼は一度深呼吸をした。

「うん、多分こっちに来るね」

しかし少年が落ち着いたのもつかの間、楓が今度は少年の右腕を引っ張り、三つ向こうの本棚の所に移動にさせられた。
楓はそこから適当に一冊の本を取り出し、視線をたまに先程の場所に向けては本に戻したりと読んでいるふりをした。ちなみに楓の本には文字が一切見当たらず、画集のようである。
少年も同じことをしたが、後に何で自分もこんなことしてんだと自問自答に暫く陥り、自身が『守ってる奴の顔とか見てみたいもんだ』と言ったせいだと気付くと、しまったとひどく肩を落とした。

「風見……とんでもない人が来たよ」

しかし傍らにいた楓は少年の名前を言い、向こうを見て、愕然とした表情を浮かべた。

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あきゅろす。
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