無からの声
辺りを見回したが、司会者はずっと喋り続けているし、どっちにしてもさっきの声が彼のものだとは思えない。
というか、声のトーンが違いすぎる。
………空耳?それにしてははっきりと聞こえたし、何を言ってるのかも分かった。
まさかこの辺って幽霊がいるとか……いやまさかそんなオカルトがある筈はないと思うが。
そんなことを考えていたら、誰かに肩を叩かれた。
例の汗臭さで天明とやらの少年であると予想し、振り向いたらその通りであった。
此処は一応舞台だから勝手に私語するのは良くない気がするのだが、お構いなしに天明は話しかけてくる。
「なぁ、さっき変な声聞こえなかったか?」
「えっ……多分聞こえたとは思うけど。『集え、若き勇者達よ』って」
すると天明は綾澤の方へ駆け出して、何やらまた話しかけている。
暫くして天明はこちらに戻ってきた。
「俺とあいつにも聞こえたんだよ、その言葉」
「…………は?」
何だか非常識な話になっている気がする。
まさか本当にオカルト現象に遭遇してしまったのか私は。
天明に詳しいことを聞こうとしたら、司会者が話題を振ってきてそれを遮った。
『では今からクロノス・オンラインUの第一回目の体験者になるに当たって、皆さんのお気持ちを聞いてみましょう。まずは天明君からどうぞ!』
「え……あっそりゃ勿論楽しみにしてますよ!」
いきなり聞かれたらそりゃ焦るに決まってるのに、この司会者も少し配慮したらどうなのだろうか。
私語をやめさせる為なら仕方がないかもしれないが。
『久浄さんは?』
「私はビジュアルが大きく変わったと雑誌で見たので、早く体験して、その世界観がどんなものなのか見てみたいです」
『そうですね、新しく生まれ変わったクロノス・オンラインUはビジュアル面でも大きく変更されておりますね!』
とりあえず私はビジュアルがほとんど目当てなので、ありのままに話した。
『綾澤君はどうかな?』
「あっ僕は……仲間がどんなキャラクターなのか、凄く楽しみにしています」
確かにそれもごもっともだ。
前作の棒人間から一気に進化して、CGを使って製作したらしいから私もそれについてはかなり期待している。
……そんなことより、天明にも綾澤にも聞こえたというあの声は何だったのだろうか。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!