[携帯モード] [URL送信]
新作、紐解かれる
『それでは只今より、クロノス・オンラインUを始めさせて頂きます!!』

大きな歓声と共に、大音量でBGMが流れ出す。
予め当選者の為に、確保されていた最前列で見ている私には鼓膜が破れるかと思うくらいに、うるさい。

舞台の中央モニターにはタイトル名が無駄に格好良く浮かび上がってきた。
背景はこのゲームの世界観を描いているのだろうか、かなり綺麗である。
白い大地と雪の舞う夜空からすれば、これはツァーリ国のような感じだ。

『それでは去年、激戦を勝ち抜いて見事一位に輝いた人達の登場です!』

側にいる係員から舞台に上がって下さいと促され、私は前に出た。


そして舞台に上がると、やはりあの綾澤という少年と鉢合わせになる。
係員を挟んで座っていたのもあったから、あの少年は初めて私がもう一人の代表であることに気付いたのはちょうど今だろう。

「よ、よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

小声で挨拶されたのだが、引っ込み思案なのかこの少年は。

『あぁと、どうやらトリエント国の代表はまだ来てないようですね』

そういえば一人足りない。
舞台に上がったのは私とやっぱりスレイマン国代表の少年だけだった。


「すみませぇぇえぇん!!!」


と確認していたら、会場の向こうから声が聴こえた。
少年は一直線に舞台に向かって走り、駆け上がると荒い息をつきながら膝をついた。
彼があまりにも汗臭く、思わず一歩下がってしまった。
反対に司会者は少年の元へ歩み寄り、本人なのかを確認しにかかる。

「えーと、ということは君が天明晢(テンミョウ サイ)君?」

「あ……そうです。け、携帯も持ってきました……」


そういえばこいつが要するに『ああああ』ということになる。
学校の授業があったのだろうか、学ランを着ていて手には学校の校章らしきマークが描かれた制鞄を持っている。
水筒やら体操服やら色々詰め込んでいるせいで、ファスナーが閉まらない状態になる程に膨れ上がっていた。
その服装で少なくとも私と同じ年か、もしくは年下であることがほとんど確定する。


『皆様、こちらにいる少年が緑豊かな国、即ちトリエント国代表の天明晢君です!』


呆気に取られていた観客達から拍手が段々と沸き上がる。
というか、これって名前読み上げられるのか……何かちょっと嫌かもしれない。
この観客達の中に知り合いがいないことを祈っておいた。

親はこの話は元より、私がこのゲームをやってることすら知らないし、今は一人暮らしだからこのイベントについても話す必要性がないと思った。
もし誰かが私の父のことを知っていたら、冷やかされる恐れがある。
とはいえ一応パソコンを扱う仕事だし、これがプラスに動けばそれでいい。
そうなる可能性は低そうだが。


『そしてこちらの少年は砂漠の国、スレイマン国代表の綾澤頼(レイ)君!』


綾澤は軽く頭を下げたが、照れているのか頬が少し赤くなっている。
そして司会者は最後に私の名前を読み上げる。

『最後に彼女が雪国であるツァーリ国の代表、久浄季沙さんです!』

拍手の音は特に小さくなったりはしなかったから少し安心した。



―――『集え、若き勇者達よ』



「………え?」

[*前へ][次へ#]

6/35ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!