思いは伝わらないもの
頭の中がぐるぐる回っている。
体が倒れて枕の上に頭を打ちつけ、それでも私はさっき自分が言ったことを何度も思い起こしながら混乱していた。
そんな状態で珀を見ると、彼の手はすでにボタンから離れていて眉を少しひそめながら私を見ていた。
「一体お前は何が言いたい?」
何で伝わってないんですか。
改めて自分の頭の上に氷の入った袋を載せようとした手が不意に止まる。
「お前のいう恋愛とやらがどういうモノかは知らんが、俺にも女はいねェしただでさえ任務とかで関わってる暇なんかねェよ」
全く以て彼の回答は疑いすらなかった。
オンラインのバトルゲーム内に恋愛云々、そんな設定RPGくらいしか聞いたことがない。
しかしながら、どうも私の言いたいことは伝わってなさげだった。
普通異性の人の裸って、見るのはちょっととか思ったりしないのだろうか……もうこの世界がよく分からない。
いや、珀が分かってないだけかもしれない。
「えぇっと、私の世界、というか国では恋愛とか普通にあるんだけど、結構そういう男の人の裸とか敏感で……あぁでも海に行ったら海パンとかいるし!!」
だめだ……どう言えばいいか分からない。
再び氷を載せた頭でどう言おうか悩んでいると、珀が氷の入った袋の上に軽く手を載せた。
彼の手からは薄い水色の光が湧き出ていて、それまで小さくなってきていた氷が再び大きくなっていた。
少し重みが頭にのしかかるけど、寝るには負担のかからない大きさだった。
「もういいから、さっさと寝て治せ」
言いたいことは山程あったが、何だか考えるのがしんどくなってきていた。
風邪はまだ完治してないし、さっきから考えてばかりいるのも影響したのだろうか。
「……うん」
結局私は、寝ることだけに集中した。
「季沙さん、いますか?」
私が寝ている間に、ドアから杳さんの声がしていた。
しかし私はそれに気付かず爆睡してたらしく、珀が代わりにドアを開けると彼は咄嗟に驚いた顔つきになった。
だがすぐに状況を飲み込んだのか、再び珀に対して不愉快な表情をする。
「どうして季沙さんを敵に回した貴方がいるんですか?」
珀もすぐに彼を睨みつけるような目で、すぐに二人の間に嫌悪な雰囲気が漂っていた。
「あいつを放って会議室に向かったお前も大差ねェだろ。誰もいなかったらあいつはどこかで倒れてしまうかもしれねェくらいは分かっていたと思ったがな」
すると杳は右手で作った拳を壁に思い切りぶつけた。
バァンと強い音が響き、珀は季沙が起きたのではと振り返ったが、彼女の動作に変化はなかったようだった。
「ですから僕が言いたいのは、何で貴方が此処にいるかということです。貴方が椿の奴隷なら、勝手に動くと彼女にも迷惑がかかるとは思わないんですか?」
その言葉に珀は暫くの間沈黙してしまった。
椿と季沙の関係は非常に悪いのに、そこに自分のせいでまたいざこざを生み出せば、今度こそ季沙もただでは済まないだろう。
「……こいつにまた倒れさせるようなことをしたら、今度はお前を『本気で』討つ」
「ですから、それは貴方が言う台詞じゃないでしょう。貴方こそこれ以上彼女を余計なことに巻き込ませたら、『全力を持って』やりますよ」
二人は互いを激しく睨みつけて、すれ違っていった。
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