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見えない枷
「え……主、って?」

私が目をぱちくりさせて再び訊くと、今度は少し不機嫌な表情になって私を睨むような目つきで見てきた。
しかしそれでも何も言おうとしない私を見てか、珀が薄く溜息をついて椅子の背にもたれかかった。
比較的真新しそうな木製の椅子がギシッと軋んだ音がする。

「……椿に飼われているってことだ」

……何だか自分の理解が追いついてないように思えるのは気のせいだろうか。
言葉では何を言っているか分かってはいるけど、その意味については受け入れ難い自分がいるようで、私は更に細かく訊いてしまう。

「珀が、ってことだよね?」

「それ以外に誰がいる」

次に答える時は彼はあっさりとこともなげな表情に変え、私を見返してきた。
反射的に私は視線を天井に向け、言われたことを理解しようとした。
しかしそれでも、次々と疑問が湧き上がってくる。

「ちょっと待って、でも珀は椿とは違う班だし」

今度も珀は私の質問に対して丁寧に答えた。

「俺のように、あいつの奴隷でいながら別行動してる奴は山ほどいる。この前中庭で決闘をやってた時に入口付近で見張ってた輩もそうだ」

一部はただの付き添いだがな、と付け加えると珀は首に付けられている銀色の輪に右手を添えた。
まるで誰か飼われているように象徴されるその首輪からは鎖が出ていて、それは彼の団服の中に入り込んでいる。
私がよく見ようと頭を動かすと、でこに載っていた氷がずり落ちてきた。
慌てて私はそれを拾い上げようとしたが、それよりも先に珀の手がそれを掴んで私のでこの上に戻してくれていた。

突発的に、私は再び彼に尋ねていた。
質問さえすれば、彼はほぼ必ず答えてくれるという確信があったからなのかもしれない。

「その首輪っぽいのって何なの?」

すると珀は右手で次に自分の左胸を抑えた。
まるでそこに何かがあるということを伝えるかのように、彼の視線もそこへと向けられる。

「この首輪を付けている奴には主がいるという証拠だ。もしこの首輪を付けた奴が主に逆らったりすれば死ぬようになっている。この鎖が心臓に繋がってる限り、な」

やっぱりまだツァーリ国の世界観に慣れてないのもあるのか、何だかも一つ意味が上手く理解出来ない。
直訳したら、首輪に付いてる鎖の先は彼の心臓だということになるが。
すると珀は、右手をそこから離すと団服のボタンに手をかけた。

……って、まさか脱ぐつもりじゃないのこれって。

「えっ、ちょっ……何するの!?」

「お前が訳分からんとでもいうような面をするからだろ」

その一言を聞いて私の頭に血が昇ってきた。
私は勢いよくガバッと起きると氷が落ちてきたのも無視して、大声で喋り倒した。

「そういう問題じゃなくて!そもそも私まだ彼氏とかその手のもの作ったことないし、恋愛とは無関係のタチだし、格好良いって思った人はそりゃいるけど結婚したいとか彼氏に欲しいとかそういうのとは微塵も思ったことないし、漫画とかで見てるんだからこれくらいは大丈夫だろとか思われたら困るの!だからもっと配慮くらいしてほしいの!……?」

途端に冷静になって、自分で何を言ってたかよく分からなくなったので落ち着いて思い出してみたら、何だか凄く恥ずかしいことを言ってたような気がした。
そして珀はというと、相当私の主張に迫力があったのか目を丸めてボタンを外そうとしていた右手を止めていた。

「え、えっと……」

もうこれは私を変な人扱いされるのが、ほぼ確定されたような気がした。

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あきゅろす。
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