[携帯モード] [URL送信]
互いの苦悩
「えっと……有難う」

「何がだ」

「だからその……付いてきてくれて。実際私何度か倒れかけたから」

あれから私が自力で部屋まで行けたかというと、そうだとは言い切れなかった。
途中何度も私は意識を失いかけ、その度に崩れ落ちそうになるのを珀が支えてくれていた。
私が何としても部屋に帰ることについて特に口出しもせず、黙って付いててくれたのだ。

部屋のロックを解除し、一息ついた私は長かった道のりがついに終点を迎えたことに安堵し、気を緩めていた。
すると再び眩暈が私に襲い掛かる。
しかし体がまた傾いているのは分かっても、私はもう意識を失うことに抵抗出来なかった。




次に目を覚ました時には自分の部屋の天井が視界に広がっていた。
それと同時に、でこに載せていたものが横へとずり落ちてきた。
ぼんやりとしながら寝返りを打ってみると、そこには沢山の氷が透明な袋の中に入れられていた。

「ようやく起きたか」

そのまま見上げてみると、そこに珀の姿があった。
腕を組んで相変わらず仏頂面で、こちらをじっと見ている。
ようやく今まで自分が何をしてたか、ふつふつとこれまでの出来事が蘇ってきた。
あと一歩のところで、私は暗黒の彼方に吸い込まれてしまったということだ。

「……ごめん」

「別に今日は何もやることがなかっただけだ。もし用事があれば俺はとっくにいてねェよ」

そっけない会話の後、双方の間に沈黙が流れる。
何だか、もの凄く気まずい雰囲気になっている気がし、何か話題はないかと適当に言葉を探す。
すると、大量の氷が入った袋が目に止まった。

「これ、どうしたの?」

「袋は説明書の隣に置かれてあったから使った。氷は俺の力で作った」

「あ、そうなんだ……」

そういえば説明書は最初袋の中にぴったりと入っていたんだっけと思い出す。
それもただ入れて封をしたりしてなかったから、再利用するにも問題なかっただろう。
しかしそう納得はしたものの、また会話が途切れてしまっていた。

「今何時?」

「夜の二時だ」

「え、晩御飯とかは?」

「食堂はもう終わっている」

「うわ、私昼と夜抜きだよ……」

「……………」

「珀は食べてないの?」

「別に腹は減ってねェよ」

「……………」

「……………」

またふり出しに戻った。
会話が全然続かない……もうほぼネタ切れだ。
本来なら逃げ出したいけど、此処は私の部屋である上珀がおそらく私を運んでくれていたのにそのような礼儀知らずな態度は流石に取りたくない。
眠気も全然ないし、此処は何とかしてやり過ごしたいところだ。

「あ」

そういえば珀に訊こうと思っていたことがあった。
杳さんに対しても理由は訊きたかったが、何より納得がいかないのは珀の方だ。

「何で椿って人の命令に従って杳さんと戦ったの?杳さんが嫌かもしれないけど別にあいつの代わりにやる必要なんかないと思ったんだけど」

咄嗟に椿を「あいつ」呼ばわりしたが、彼女に対しては嫌悪感しかないしもう何と呼ぼうがどうでも良くなってきた。
だが珀の答えに、私はまたしても度肝を抜かれてしまう。

「俺の主が、椿だからだ」

[*前へ][次へ#]

33/35ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!