冷え込みは禁物
「つ、疲れた……」
私は自分の部屋に戻ると、ベットに座って寝転がった。
珀の明快な説明で今回は私もお咎めなしで帰らされたが、椿達や珀と杳さんがその後どうなったかは見ていなかった。
あの長官の態度がもの凄く怖いのですぐ帰ることが出来たのは非常に有難いが、洩の胸倉を掴むあの勢いなだけに特に杳さんがどうなってしまったか不安である。
そういえば珀は珀で、何故椿の言ったことに従ったのだろうと思った。
やっぱり権力が強いらしい彼女の命令には逆らえば厄介だったりするのだろうか、実際『奴隷』なんていう分際の人もいるみたいだし。
でも普通他人の代わりに戦うなんて、そんな面倒なことは引き受けたくないと思うけど。
「寒いなぁ……」
くたくたになって雪の上にそのまま座ってたせいか、寒気がちっとも収まらない。
服は防水加工が施されているらしく染み込んだりはしていなかったが、雪の冷たさはひどく伝わってきていたしずっと座り込んでいたのがやはり原因だったと思える。
暖房を強めにして入れておいたが、頭が何だかぼんやりしているのも考えればただ事ではないと思えた。
「風邪、引いたかも」
次に私が目を覚ましたのは、誰かがドアをノックしている音だった。
「季沙さん、いますか?」
声の主は杳さんだと思い、ドアを開けに起き上がろうとすると何だか体がいつも以上に重く感じられた。
それと同時に頭がガンガンする。
それでも負けじと立ち上がると、軍の指定されている上着を着てすぐにドアの鍵を開けにかかった。
窓からは夕焼けの光が零れていて、相当の時間が経っていることに気付く。
「だ、大丈夫ですか?」
私を見ると杳さんはびっくりしたような顔つきをする。
人の目からでも分かる程、どうやら症状は酷いらしい。
あの腕輪を付けていたこともあってか、杳さんは元気そうだった。
顎の傷もすっかり消えている。
「あの、お怪我とかは」
「あの腕輪は本物らしいですね、外した途端に受けた傷は全部完治しましたよ」
それよりも、と杳さんは付け加えながら困り果てた表情をした。
「長官から至急貴方を連れてくるように言われましたが、その様子だとそれどころではなさそうですね」
その内容を聞いて、慌てて私は一度頭を下げて謝った。
「すみません、でもそれってすぐ終わる用件なんですか?」
「いえ、おそらく長引くでしょうね……ですがとりあえず病棟まで行って、熱の方を診てもらった方がいいでしょう」
とりあえず私は杳さんの言う通りにした。
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