外見と中身は別物
ずかずかと入り込んできたのは金髪の女性で、入口付近ではのぼせている椿の配下が残らず転がっていた。
外見は気品高そうに見えるものの、片手には葉巻を持ち明らかにイライラしているであろうもの凄く尖った目つきがそのことを否定している風に見える。
椿が一歩後ずさって彼女が何者であるかを口にした。
「ち、長官……!」
その長官の胸には太陽の紋章が燦然と輝いており、右腕には『指導員』と大きく書かれた腕章を付けていた。
しかし油性ペンで書かれたかのようなその字を見る限りでは、即席で作り上げた安っぽさが変にある。
しかしながら椿がぎょっとしているし、おそらく長官であることくらいは肯定出来るだろう。
彼女は椿達のもとに着くと一度葉巻を吸って煙を空気中へと深く吐いた。
「な、何のご用件でしょうか」
不意に洩が冷や汗を掻きながら質問すると、彼女の眉間に再び皺が寄せられる。
何か……嫌な予感がした。
すると彼女は洩のもとまで行くと、質問をした彼の胸倉を掴んで怒鳴り始めた。
「何が『何のご用件』だ小童共が!城内での乱闘は禁止っつっただろ!それとも毎日言わねェと覚えてすらいられねェのか!あァ!?」
彼女の大音量に椿と杳さんは両手で耳を塞いでいる。
というかこの人、何という口調の悪さだろう……言ってる内容を覗けば、この光景はまるでカツアゲだ。
「長官……一応此処って外ですよね?」
「この敷地ひっくるめて城内ってくらい、分かるだろうが普通!」
椿がどうにか食い下がるものの、長官の怒鳴り声にはとうとう完全に押し黙ってしまった。
長官は乱暴に洩を解放するとフン、と鼻を鳴らし、今度は珀を横目で見てから静かに尋ねる。
「珀。此処で何をしたか、全て説明しろ」
珀は一間置いてから、余すところなく状況を説明した。
「ですので今は決闘に主が介入した為、中断した状態となっています」
「分かった。要するに馬鹿が二、三匹いたってことだな」
長官がかなりアバウトに要約すると、今度はギロリと私達の方へ睨み付けた。
その威圧の篭った瞳に、私も思わず背筋がピンと伸びてしまう。
「お前等はそこで何をしていた」
すると眼鏡の女性は一歩前へ出て、自分が無罪であることを説明する。
「わ、私は彼女に審判をやれって言われて、此処で勝負の行く末を見ていただけです!」
「何故断らなかった」
「椿さんの側には彼がいますし、もし断ったらと思うと……」
長官は理由を聞き終えると濃い溜息をついて、もう帰れとだけ彼女に言い渡した。
おずおずとしながらその場を立ち去ろうとする彼女は一度私の方を見ると苦笑した表情を浮かべる。
「またねっ」
しかし声はとてもその表情とは思えぬ程に、明るかった。
長官も彼女が出て行く姿を見送ると、やはり今度は私の方をじろりと見てきた。
あまりに迫力がありすぎて、言葉が出せない。
「……沙季にそっくりさんなんかいたか?」
第一声と共に、ただでさえ鋭いその目を更に細くして私を凝視しているようだ。
思わずたじろいで、背中と壁がぺったり貼りついた状態になる。
まさかまたあんなややこしい事情を話して、彼女にも納得させなければならないのだろうか。
だが……もし失敗してキレられたらと思うと、躊躇ってしまう。
洩に対して彼女が激怒したあの光景が、脳裏に綺麗に焼き付いていた。
「長官、もしかしてまだお聞きになってないのでは」
しかし珀の声が私にどんどん近寄ってくる長官の足をどうにか引き留めてくれた。
長官の視線が私からようやく外れる。
「その点におきましては女王様から直々に説明があったかと思いましたが」
「女王?こいつについてのか?」
長官の問いに、珀は頷いた。
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