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すれ違い軋むもの
「まさか貴方と、しかもこんな形で勝負するとは思いませんでしたよ」

杳さんがおもむろに左手を突き出し、拳を作った。
そういえば彼の軍服は他の人達とは少し違ってて、左腕の部分だけ何やら淡い水色のような生地で他の部分と繋ぎとめられてあり、違和感を覚えさせていた。

すると握られた左手の隙間から光が漏れ出し、瞬く間にそれは一本の槍へと姿を変えていた。
その槍は確か、初めて出会った時に持っていたのと同じものだったと思う。

「仲間だとこうして戦う機会なんてありませんからね、案外貴方も嬉しいんじゃないですか?」

それを携えた杳さんはしなやかに中段の構えを取り、穂先を目の前にいる無防備な少年へと突き出した。

「仲間割れをすれば降格される危険性がある上、お前には何が剥奪されるか……そういうお前の方が案外嬉しいんじゃねェのか」

珀は特に表情も変えなければ、何の構えも見せない。
ただ口先を少し動かして淡々と自分の思うことを述べていった。

「それとも……『沙季』に未練でもあるのか」

「!!」

ふぅと息をついてから前へ出て、審判をする洩に開始を告げるように言いつけた椿、それを受けて開始させようと右手を上にあげた洩、まだなんですかぁとぶつぶつ愚痴を零す眼鏡をかけた女性、そしてどうしたらいいのか分からず結局ぼんやりと見守る私の前で

「一度、その口を封じておくべきだったようですね」

杳さんの左腕と握られていた槍が突然発火した。



「危ないわね……彼、完全にキレてるじゃない」

椿はそうは言うものの、さっさと隅の方へ退避しようともせずやれやれと言わんばかりに今度は洩にもたれかかった。
突然杳さんの腕が燃え上がったことにびっくりした彼は右腕を下げており、自分へと寄ってきた彼女を見るや少し顔を赤らめてすぐにそっぽを向いた。
見る側としては何だか面白いが、すぐ近くで戦闘が始まるのもあり素直には笑えなかった。

改めて杳さんの方を見れば足元の雪が溶けてきているらしく、彼の周辺の雪で覆われた地面は窪んでいる。
そういえばツァーリ国へ降り立って以来、私は始めて寒いと感じなくなっていた。
それよりも私は杳さんの左腕が燃えているという状態に言葉を失っていた。
槍を振るうことは知っていたが、自らの腕を燃やしてしまうとはこれっぽっちも聞いたことも見たこともない。

「うわぁまさか彼の左腕が燃えている姿をこの目で見れるなんて、案外私って運が良いのかも!」

隣にいる眼鏡の女性は両手を合わせて目を輝かせ、完全に杳さんの姿に見入っていた。
どうやら彼の腕が燃えていることなんて、全く一大事だとは思っていないらしい。

……とはいえ、やはりその理由が凄く気になる。

「ね、そう思うでしょ貴方も!」

すると逆に向こうから私に同意を求める形で話しかけられ、一瞬対応に困ってしまう。
そこで私の事情を一部を除いて正直に話すことにして、彼女に説明してくれないか頼むことにした。
勿論省く内容は異世界の話に関連すること全てだ。



「あらら、それはびっくりして当然よね」

爆音が断続的に轟く中、彼女はうんうんと頷いて私の話を聞き入ってくれている。
私は彼女に出来る限り近寄って、何とか声を拾っては応答していた。

「普通新米さんって同じ称号の人と組まされる筈なんだけど」

彼等と組んでいるなんてそりゃ苦労するに決まってるよと眼鏡の女性は同情しているのか、私の肩をぽんぽんと叩いた。
色々複雑な事情もあるけど、とりあえずここは彼女に対して有難く思っておくことにする。
しかしながら実のところ私が携帯ゲームとしてこれをやり始めた時も彼等は最初から十字と太陽の称号を持っていて、それに対して私は最も低い星の称号から始めさせられていたのだが、これも珍しいケースだったのだろうか。
そういえば攻略掲示板にもまとめには『通常プレイヤーと仲間(CPU)は一番下の称号から始められます』とか書いていた覚えがある。
この点においてはどの国でも同じなんだとか。

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