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可哀相というよりやむなし
「あら、もしかして貴方って入りたてなの?」

椿は男性と同じくくすくすと上品そうに、しかしながら私を小馬鹿にした目で笑っていた。
言い返すにも図星であるその言葉に、何を言い出せばいいのか分からない。

傍らにいる珀はいつの間にか食事の手を止めて、目を閉じて腕を組んでじっと座っていた。
元々知っているからなのか、そのことに全く興味すらなさそうだった。

「えぇ、ですからまだ制度についてはお話しておりません。椿嬢」

そこへ杳さんが私の右に立って、左腕で私と彼女との間を遮った。
しかし全く動じない彼女は反対にくす、と笑みを浮かべ彼をも見下すような眼差しで対峙する。

「それで、貴方がこの子の仲間だとでも言うのかしら。杳さん?」

「そうですね、一緒に組んでる方ですよ」

すんなりと彼女の言ったことを認めた杳さんに、周辺にいた軍人達がどっと笑い出した。
何故笑っているかも分からない私は彼等を見回すことしか出来ずにいた。

「不憫よねあの子」

「新米なのに、可哀相だよ」

その声音は同情しているかのようだが、彼等の態度はむしろ私を滑稽に見ているのと同じだった。
何故杳さんと組んでいることがそれ程までにおかしなことなのか、私は頭の中で思い当たる節を探ってみた。

「……あ」

杳さんと珀は同じ組だ。
そして珀はおそらく、彼等から軽蔑されているのだろう。

「珀が同じ組だから、可笑しいんですか」

するとあまりに私が無知であることに呆れたのか、彼女はとうとう反応も見せずに私を無視して杳さんに人差し指を突き立てた。

「貴方は今の自分の立場がどうなっているか、分かっているつもり?」

杳さんはやれやれと肩を竦め、貴族である彼女の前で盛大な溜息をつく。
強大な権力を持つ彼女に対してそれは無礼とも言えるべき仕草だった。

「何を言うかと思えば……分かっていないのは貴方です、椿嬢」

「貴様……」

軋むような声で、傍らにいる召使いが脇に差している剣を抜こうとする。
反対に杳さんは相変わらず余裕の態度だった。

「やめなさい洩(セツ)、城内で軍人達との間での戦闘は禁止されているわ。それとも、私の権力に傷をつけるつもり?」

洩と呼ばれたその青年は暫く剣の持ち手を握っていたが、彼女の鋭い視線に耐えられず遂にそこから手を離した。
だが彼の殺気だけは相変わらず杳さんへと向けられている。

私達に向き直った椿は腕を組むと、空色の瞳を宿した目を細めた。
どうやら彼女も少なからず、杳さんの態度に苛立ちを覚えたようだ。

「どういうことか説明してもらえるかしら。称号がない今の貴方にね」

彼女の言葉に私の思考が停止した。
私がまだ携帯ゲームをやっていた頃だが、此処の軍人には全員称号が与えられていて、軍服の左胸にそれらを象徴したプレートが付けられている。
位は下から順に『星』『月』『太陽』『十字』があって、新人は特例がない限り星の称号を与えられることになる。
ちなみに私のデータの場合、仲間……つまりは棒人間となるのだが、彼等は太陽と十字の称号を手にしており、私は月の称号だった。
照らし合わせてみると、珀の左胸には十字の称号を表すプレートが輝いていたが、杳さんにはプレート自体がどこにも見当たらなかった。

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