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ぼろぼろの的
先程まで騒がしかった食堂が嘘のように、シンと静まり返る。
落ち着いて平静を保とうと運んできた自分の朝食をじっと見つめてはいるものの、無数の視線がこちらに来ていることがやはり気になる。
ここに座る時点でそれくらいのことは覚悟していたが、居心地の悪さは思っていた以上であった。
少し横目で周りの様子を覗いてみれば、そんな状況が一目瞭然で分かる。

「……………」

次に向かいにいる珀の様子をちらりと窺うと、意外にも彼はそんな状況には気にも止めず、目の前にあるパンを一口くらいに裂いては黙々と食べていた。
慣れてしまっているのか、その表情から何一つ動揺が見当たらない。

私も珀を見習ってとりあえず貰ってきた、じゃがいもという割には細長くてこぼこが全くないものを食べようと思った。
杳さん曰く、これでもツァーリ国ではれっきとしたじゃがいもではあるらしい。
ちなみにじゃがいもは私の大好物だが、ここのものは不味いかもしれないので念の為に一個しか取ってこなかった。

……しかしながらまるごと一つ、どうやって食べたらいいんだろう。

とりあえず丸かじりしようと口の手前まで持ってきて、試してみた。
しかし全く加工されていないそのじゃがいもは砕けるどころか歯が食い込もうともしない。

「か、硬っ」

かじるのを諦めて、改めてそれを見ると皮は元のままで、私の歯形は全く残っていなかった。
どうやら工夫して食べないと、味わうことも出来ないようだ。

「誰あの子?」

「さぁ、新米とか?」

その一部始終を見ている周りの軍人達からそんな声が聞こえてきた。
実体験では確かに新米なので、あながち間違っているとは言えないけど。
第一携帯ゲームで『食べる』なんていう選択自体が存在してないし、この点については私もさっぱりだった。

食べ方に悩んだ挙句、それを皿に戻してとりあえず水を飲もうと透明なコップに手をかけた時、ふと珀の左手に持っているじゃがいもが目に入った。
珀は一度こちらを見返したが、すぐに視線をそれへと戻すともう片方の手でそれの皮を先端から剥き始めた。
その間珀はたまにこちらをちらりと見返してくる。


するとまるでバナナのように、じゃがいもの皮がもう一方の先端へと綺麗にめくれていった。
その作業を数回繰り返し、それが終わると皮の剥けた部分を珀はやっと口にした。
そして一口分を食べ終えると、その光景をじっと見ている私にぽつりと言った。

「何を見ている」

「………!!」

慌てて視線を逸らし、水を一杯とそこに入っていた氷一つを食べた。
そういえば知らぬ間に食堂の雰囲気が戻りつつあり、私への興味もほぼなくなってきたのか少量の会話らしき声が耳に入るようになった。

……しかしながらじゃがいもの件については、またも珀に助けられてしまったようだ。

コップを置いて、私も珀の食べ方を参考にしてじゃがいもを手に取って皮を剥いた。
意外と私でも綺麗に剥けて、あっという間に中身がさらけ出される。
なかなか美味しそうだし、早速味見してみよう。

「貴方、何をやっているか分かってますの?」

だがそれを口の手前まで持ってくるのと同時に、女性が張りのある声で私の手を止めさせた。
私が声の主を探そうとすると、真正面で珀の傍に立っている女性が両手を腰に当てて、勝気な表情を浮かべている。
左目の下に付いている泣きボクロと牡丹色の髪で、彼女はこの前管理室まで案内してくれた女性だったとすぐに分かった。

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