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仲間外れ
「げげっ……」

扉が開いた途端、無数の人々の談笑が耳に入ってきた。
中心に輝く大きなシャンデリアの電気は点いてないようだが、その代わりにガラスで外とを仕切った壁が太陽の光を取り込んで開放的な空間を生み出している。
吹雪は現在止んでいるらしく、真っ白い景色が辺りに広がっていた。
白い天井に無数に並ぶ木造の長テーブルには私と同じ黒装束の軍人達が各々のメニューを食べている。

「此処はバイキング形式ですので好きなものを自由なだけ取っても構いませんよ」

ひとまず食べ物を取る為に私達は軍人達の列に並ぶことにした。
私達が遅れてきたのもあってか、たいていの人達は既に食事中のようでそんなに混んではいなかった。
食器は皿とフォークとナイフがあって、まずはこれらを一通り貰っていくことにしたが、ナイフを取るところで私の手が無造作に止まってしまった。

「ナイフが一つしか、ない」

これでは後ろに並んでいる珀の分が足りなくなる。
近くに料理人らしき人はいないか見渡してみたが、誰もが似たような軍服を着ていてそれらしき人は見つからない。
ちらりと珀の表情を覗いてみると咄嗟に言った独り言が漏れていたのか、同じく彼もそこを目に止めていた。

しかし私の視線に気付くと真っ向から私をじろりと見返してきた。
どういった食べ物があるか分からないからナイフは取っておこうと思ったが、これではますます取りづらい。
しかしながら何が並んであるのか見ているとパンらしきものを見つけたので、一応なくても大丈夫そうだ。
食べるものは限られてしまうが。

「あ、いいよ。私は大丈夫だし」

「……………」

二つの金色の瞳が、私を捉えている。
普段こういう時は自然と目が逸れるのだが、その視線からは何故か逃れることが出来なかった。
同時に何か言葉を探そうとしてはいるが、私の頭は全く思いつこうとしない。

やがて彼は両目を閉じると、何故か足を進めて私を横切ってしまう。
私がナイフの件で困惑している間に列は相当進んでしまい、杳さんの背中が少し先にあった。
結局ナイフはそこに残ったままで、珀はナイフだけ取らずに先へと行ってしまう。
貰っていいってことだよね、と心の中でとりあえず珀に感謝しながら私はそのナイフを頂いていくことにした。




「季沙さんは食べる量が少ないですね。まぁ少量ずつ取って食べるという手もありますけど」

「いつも朝食はそんなに食べてないんで、お腹壊すと良くないかなと思って……」

食べ物が沢山載った三枚の皿をウェイターのように器用に持っている杳さんは結局一枚で収まった私の皿を見ながらにこやかに話しかけてきた。
前日というか何というかだが、初対面の時とは大違いだ。
珀は彼よりも早く食べ物を選び終えたのか、一直線に開いている隅っこの席へと行ってしまった。

……何であそこのテーブルだけ誰も座ってないんだろう。

「どっか開いてる席ないのかよ」

「待てよ。向こうに一席と、あっちに一席開いてるみたいだぜ!」

「今回は別れて食べないと仕方ないみたいね。じゃ、また後でね!」

杳さんの前にいた三人グループの人達はあっさりと散り散りになって、各々の席へと向かっていった。
まるで、珀のいるテーブルなんて見ない振りでもしているかのようだった。

「僕は友人に二人分の席を取ってもらっているので、席の心配をする必要はありませんよ」

「えっ」

指を差した方向を見てみると、確かに二席荷物が置かれた状態になっているところがある。
近くには橙色のもの凄く髪の短い女の人と、紫色のショートヘアの女の人と、紺色の短髪の男の人がいた。

「す、すみません。ちょっと色々と考え事をしてて、頭がこんがらがっちゃってるので一人で食べます」

私は既に出来ている輪の中に入るのは苦手で、それは捨て身だと置き換えている。
元々集団行動や人に合わせること自体私にはなかなか出来ないし、よく人からも大人しいとか内気だとか勘違いされるタイプだ。
過去の出来事が影響の一つとも言えるが、今はそんなにあの出来事を気にしていない。
……だがあれ以来、どうも人付き合いというモノが苦手になってしまったようだ。

杳さんは一度あのテーブルを見ると、また後でとだけ言い残して去っていった。


「さてと」

周辺は見たところ、開いてる席は四方が見知らぬ人に囲まれている状態だ。
実は人見知りな私は集団の中に混じって食べるのは嫌だし、とりあえず一直線にあの場所へと足を進めた。
珀なら私の事情もざっとだが知っているし、まだ安心出来ると思った。

「ちょっ、あの子まさか」

「マジで座るのかあそこに!?」

周囲が私を見つめ、ざわめいている。
何がいけないのかも分からないのに、あの席に座ったらいけないような雰囲気を出されても困る。
私の行動が他人に迷惑をかけるわけでもあるまいし。

「……………」

私の気配に気付いた珀は何も言わず、ただこちらを見つめている。
私は皿を置いて、珀の向かいの席に堂々と座った。

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