目覚めても夢の中
「季沙さん!聞こえてますか!?」
誰かに強く肩を揺さぶられて、私は顔をあげた。
テーブルの上で腕を組んで、いつの間にか熟睡していたらしい。
腕を退けてみると、先程読んでいたガイダンスの本に折目がくっきり付いていた。
……あの後また寝てしまったようだ。
「朝食の時間ですよ、お腹が減っていたのではないのですか?」
上から聞こえるやんわりした声にぼんやりと振り返ってみると、顔立ちのいい青年が柔和な微笑を浮かべて私を気遣っている。
「……杳…さん?」
「あとドアは閉めておきましょうか。オートロックとはいえ、ドアがちゃんと閉まっていなければ折角の機能もお役に立てませんので」
ぎょっとして私は玄関の方を見た。
今はちゃんと閉められているようだが、そこに珀が腕を組んで近くの壁にもたれかかっている姿も窺える。
恥ずかしくて一気に眠気がふっ飛んだ。
「まぁ貴方の部屋が一番奥なのが幸いですね、通りすがりに見られる心配はありませんし」
私は慌てて立ち上がって、真正面に付いてる鏡を見た。
髪はそれ程乱れていなくて一息ついたが、直後に腹の虫が再び鳴る。
「す、すみません………」
「いえ、食堂は五分くらい前に開いたばかりですし」
焦らなくても大丈夫だと言われたが、迷惑をかけているし、もしこの部屋の中に妙なものがあったらと思うといてもたってもいられなかった。
まだ部屋のもの全てを把握しきれていない。
それにしても自分の部屋に二人も異性がいるとか……しかも先程知り合ったばかりの人達だ。
自分の警戒心のなさにも深く反省する。
駆け足で玄関へ向かい、ドアを開ける時につい横を見ると再び珀と目が合った。
管理室へ向かう時の一件もあるし、一応謝っておくべきだろうか。
「ご、ごめん」
「……………」
返事一つもなく、無視された。
思った通りに愛想のない人だ、ちやほやされるよりかはマシだが。
「では行きましょうか」
そんな様子も気にしてないのか、杳さんは私達のやりとりが終わったと気付くと先にドアのノブに手を触れた。
「おはようございます」
「あぁ杳君、今日は少し遅かったんだね」
「いえ、色々あったもので」
私のせいでやっぱり迷惑がかかっていた。
今私達は食堂の扉の前で、入る為の手続きをしている。
とは言ってもそこで食べる人達のリストに載っているかを確かめるだけだが。
「ではどうぞ」
無事に確認も済ませて、杳さんが食堂の扉を引いた。
ちらりと私が役人を見ると、この人は珀を見ながら露骨に嫌そうな顔をしている。
私の視線には気付いていないようだった。
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