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妖しい人ほど影は濃い
「誰かと思えば」

女の人の声にはっとして私は振り向いた。
先程までとは程遠い、蔑むような目と僅かに口の両端を吊り上げた妖しい笑み。

「貴方でしたか、獣人さん」

声音は何一つ変わってないのに、それでも相手の心をえぐってしまうかのような言い方が悪女らしい雰囲気を匂わせる。

……獣人でいることは悪いことだっけ?
てっきり私は獣人の隊員なんて当たり前にいると思い込んではいたが。

そう考えていると、今度は逆の腕をぐいっと引っ張られた。

「管理室なら私が案内するからついてきなさい」

凜とした声の持ち主は私達と似たような軍服を着た、牡丹色の髪をふわりとなびかせている女性だった。
足早に引っ張っていこうとされる私は、咄嗟に彼女の左目の下の泣きボクロに目が入る。
また髪の合間から見える金色に輝くピアスが高貴さを伺わせていた。
私が何故かを訊こうとするも、彼女は聞く耳も持たず、結局私を連れてさっさとこの場から離れてしまった。





「……全く、彼女の行動は行きすぎていて困りますね。そうでしょう?」

彼女の姿が見えなくなって女性はふぅと一息つくと、折れ曲がっていたらしい袖の裾を元に戻した。
そして同意を求めるかの如く、彼に目を向ける。

「お前も人のことを言える立場だとは思えねェがな。『掟破り』はそれと関係しているのか?」

そう答える珀に、彼女は腕を組むと刺々しい視線で見据える。
上辺の笑みも完全に消え、そこからは憎悪以外何も感じ取れない。

「貴方に教える必要はないでしょう?」

その声は低く、男性のものに近い。
ここで珀は初めて表情を変え、目を細めると同じく声音を低くして問い出した。

「お前はあいつをからかっているのか?」

そう訊かれた者は一度目を丸くしたが、嫌ですねと言って右手を口元に当ててくすりと笑う。

「そんな意地悪なことはしませんよ」

声音は再び女性らしさを取り戻していた。

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あきゅろす。
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