水面下にご用心
杳さんが突然足を止めた。
そういえば渡り廊下を歩いて別館に来たみたいで、それぞれのドアに部屋番号が書かれてある。
確か一作目をやってた時は此処が寮だったと思う。
「以前から使っていた沙季の部屋です。オートロック式で、このパネルの数字をさっき管理人に聞いた番号順に打てば入れる筈ですよ」
早速ドアノブの上にあったパネルにその数字を入れてみる。
パネルの両側には仕切りが付いている為、杳さんと珀には見えてない……筈だ。
まもなくしてドアからガチャッと鍵が開いたような音がする。
「後は確かガイダンスの本が部屋の何処かに置いてる筈なので、それを参照にして下さい」
此処で始めて、杳さんがニコリと穏やかな笑みを浮かべた。
俗に言う営業スマイルみたいな感じだが。
「え、あの」
「一応プライベートですからね、貴方が入ってもいいと言うようなら別ですが」
確かにもし何かやばそうなモノがあったら大変だと思う。
一歩間違えたら一生の恥になるようなモノは置いてない筈だが、念の為確認はすべきだろう。
「ではまた朝食の際に伺いますので、質問はその時にお願いします。緊急の場合は『管理室』と書かれたボタンを押せば管理人と話が出来ますから、そちらに連絡して下さいね」
「えっ、ちょ朝食!?」
昼からゲームを始めて、結局晩御飯抜きになってる……そういえば今って何時だろう。
そんなことを考えていると、間抜けそうな音で腹の虫がぐぅと鳴った。
………こんなタイミングで最悪だ。
「あぁ大丈夫ですよ。朝食の時間はあと一時間くらいですから、それまでにガイダンスを読むにはちょうど良いでしょう」
「すみません……」
非常食……せめておやつが欲しい。
だが今はミント味のタブレットしか持ってないし、勿論それで腹の音が止むとは思えない。
どういう訳か、ゲームを体験する時にかけっぱなしにしていた鞄が中身までちゃんと此処に存在している。
今も肩にかかっている状態だ。
「ではまた後程」
杳さんはそこから立ち去った。
少し遅れて珀が私をちらりと見てから同じ方向に去る。
……そういえば珀とは謝って以来何も話しなかった。
朝食の時に声かけてみようかな。
私はとりあえず部屋の中に入った。
一方、部屋に戻る杳は遅れて歩いてくる珀を一瞥すると、ぶっきらぼうに声をかける。
「分かっているでしょうけど、彼女を巻き込むような真似はしないで下さいね」
珀は何一つ、反応したような素振りをしなかった。
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