お告げは私を振り回す
「……馬鹿げたことを言わないでくれませんか」
それを聞いた青年が呆れたかのように溜め息をつく。
やはり最初に言わなくて正解だった、というかやっぱり言うべきでなかったか。
「……………」
対する少年は自らの沈黙を守っている。
とりあえず信用はしていなさげで、表情も微動だにしていない。
ところが女王は顔を隠したまま立ち上がり、いきなり叫び始めた。
「神のお告げが成就されたわ!」
初めは気でも狂ったのかと思ったが、神のお告げって一体何のことだろうと思う。
「貴方が異界からやってきた神の使者ですね?」
次いで、今一つ言ってる意味が理解出来ない私に質問する。
何を言うのだろう、私は天使じゃなければメシアでもない。
ただの人間だ。
……だが異界の者であるのは確かだ。
それにもしかして、神というのは此処に来る前に出会ったクロノスのことであるのなら―――
「………多分、そうです」
答えは肯定だろう。
女王は玉座に再び腰を降ろす。
「やはりそうですわね。先週に神のお告げがありましたわ、『異界から沙季という名の少女の体を媒介にして、お前達を救う勇者が現れる』と」
「お言葉ですが、沙季はどうなってしまったのでしょうか……」
青年は横やりに質問した。
「此処にいる彼女と沙季の心は同じ。同一人物と見なしても大丈夫でしょう。そうですわね季沙さん?」
「間違ってないとは思います……」
実際沙季を動かしているのは私だし、私からすればそれが直接的に彼女の体を動かすことに変わったくらいだろう。
女王は顔が見えないようにしながら、扇子を器用にパタパタと動かし始める。
「杳(ヨウ)、彼女のことは今まで通り貴方に任せます。但しこれまで以上に彼女を気遣いなさい」
「了解しました」
杳と呼ばれた青年は一礼をして、この部屋を出る。
私達も彼の後を付いていくように、此処を後にした。
何処へ行くのかも分からないまま、私はただひたすら前に進んでいる。
城内は豪華で大理石の床が張りめぐらされてあり、天井には聖なる感じのする絵がずっと先まで描かれてある。
夜間なのにも関わらず、人通りは多い。
城内を見回していると、棒人間B――珀と目が合った。
「……悪かったな、首を締めつけて」
そう言うと彼は目をそらした。
「いや…私こそ、あんな態度で……ごめんなさい」
正直今思うと、あの言い方は酷かったかもしれない。
やっぱり帰ったとしても、仲間から外すのはやめようと思い直した。
……しかし、この気まずさだけはどうにかしてほしい。
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