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見知らぬ世界に放られて
「沙季っ!」

再び視界がはっきりとしてきた。
しかし吹雪が視界を見辛くする。
だが、こちらに必死に駆けてくる誰かがいることだけは分かる。


「………え?」


後ろからの危険を全身の神経が訴えかけている気がし、背後を見た。
長い爪を生やした人間……いや人間というよりはバケモノ?
その爪が私に振り降ろされようとしていた。


………私、死ぬの?



しかしそのバケモノはそこから動かない。
それどころか、そのまま後ろへと倒れた。

「沙季!大丈夫なのか!?」

呆気に取られていると、後ろからさっき私を呼んだらしい青年が安否を気遣ってくれていることに気付いた。
しかし、何故この人は私の名前を『サキ』だなんて呼ぶのだろう。

「あの、どなたか存じませんが私はサキじゃなくて季沙なんですけど……」

「……貴方、誰ですか?」

それは私の台詞だ。
だが……『サキ』という名前が頭に引っ掛かる。

「……もしかして私のキャラクターの名前?」

そう考えると先程のクロノスとの会話の辻褄が合う。
沙季という名前は名前を付けるのが面倒臭くて、自分の名前を逆にしただけである。

……となると、この人は一作目でいう仲間の棒人間?
確か仲間の一人は槍の使い手で、ちょうどこの人の左手には血の付いた槍が握られていた。

彼はアメジストのような紫色の髪を胸辺りまで伸ばしていて、青色の瞳を私に向けている。
ゲームならではの整った顔立ち……美形だと思う、私から見たらだが。

「何かあったのか」

いつの間にか私の横にまた別の人がいた。
肩までありそうな黒髪はざんばらで、左頬には獣偏のような形の刺青がある。
また目は金色で、右目には縦に切られたような傷痕が残っている。
だが顔立ちはやっぱりいい。
しかし年は……私と近いのではないだろうか。
ということは彼がもう一人の元棒人間、いや確か獣人だった筈。

先程私に襲いかかろうとしたバケモノを仕留めたのは彼だった。


「沙季の体が乗っ取られた」

「違っ、これは元々私がプレイしていたキャラクタ……」

弁解しようとしたが、よく考えたらゲームの登場人物に自分がこの人を操作していたんだなんて、言えやしない。
むしろ逆効果だ、向こうからすれば私が悪者に見える。

考え込んでいると、いきなり獣人の方の仲間が私の首を掴んだ。
息が苦しい。

「何者だ貴様」

金色の瞳が私を射抜くように睨んだ。
本当に、獣のような目をしている。
その目に怯みそうになったが、私は何とか声を振り絞った。

「言っても、絶対……信じない………分かる、もんか」

その直後に私の首を掴む腕に力が入ったのが分かった。
視界が霞んでいる―――意識が遠のくのを、私は悟った。



だが、その力が緩んだ。

「やめろ珀(ハク)、これ以上やると沙季の命に関わることになる」

珀と呼ばれた少年は私の首から手を離したが、そう促した青年を睨みつけていた。
この二人、もしやあまり仲が良くないのだろうか。
一作目では棒人間なだけに、人間関係といった詳細な設定はされていなかった。

私はその場に座り込んで、肺に十分な酸素を取り込んだ。
そんな私に青年は近寄り、私は彼を見上げるようにして見る。

「とにかく貴方が私達には理解出来ないモノだということはよく分かりました。ですから貴方の身柄はとりあえず、軍部に戻って一度差し出すことにします」

軍部……そしてこの真っ白い大地。
間違いない、此処は私のキャラクターがいた場所―――ツァーリ国だ。

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あきゅろす。
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