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雪上の鎮魂歌
今宵は満月。
それも普段は雪が降っているこの土地には珍しく、陰りが全くない。

「やはりこれも皆、獣人か……」

先程倒した敵の遺体の側にある大岩に座って、ハーモニカで鎮魂歌を奏でることにした。
自分で言うのも何だが、何処となく虚しい光景に思える。



獣人―――簡単に言うなら人の形をした『バケモノ』である。
そして被差別者だ。
身体能力に特化していて、人間よりも高く跳び、早く走り、そして倍以上の回復力を持っている。

しかし金色の悪魔のような鋭い目と、人間が使うことの出来ない変わった力を持っている。
それは個人で違うらしいが、とりあえず人間からすれば気味悪い者として映り、そして何より畏れた。

今は共存していても、このままではいずれ自分達人間が絶滅してしまうのではないかと思った。


下に倒れていた獣人達が一陣の冷たい風で塵と化し、掻き消えた。
彼等は体の一部を残すことはなく、そこに残ったのは彼等の着ていた服や遺品だけだった。

仕方がない。やってしまった以上、獣人達も人間を敵視して襲ってくるのだから。
そしてこれは軍からの命令―――戦うのを拒めば、そこが戦場であろうがあるまいが待つのは『死』だけだ。

一通り吹いた後、懐にハーモニカをしまった。

「どうか次に生まれる時は……平和な中でいられますように」

この世界は人間によって、『浄化』されつつあるのだから。


「下らねェ」


背後でそれに答えた声がする。

振り向くとそこに、少年が一人夜空を見上げていた。
黒いロングコートのポケットに手を突っ込んで、肩まであるざんばらな黒い髪をなびかせながらも目元まである前髪のせいで、表情はあまり窺えない。

空は真っ黒に塗り潰されていて、そこにばらまかれたかのように無数の星が彼を見下ろしている。
道端に点々と設置された洋風のランプが朧けな光で、雪に埋もれた大地を照らしていた。


「度々の同じ感想を有難うございます」

少し皮肉った後、岩から降りて彼とは逆の方向へ歩いた。
その先、既に真っ直ぐに肩より少し伸ばした黒髪の少女が既にすたすたと歩き始めている。
確かにさっさと城に戻らなければ、上官にどやされてしまうだろう。



「這い上がってくる気もねェ奴に、同情なんかしていられるかよ」

少年の声は耳に入ってこなかった。




―――第一章『選ばれし勇者』


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