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ショートコント3
サイモン





 サイモンとは、僕の家のカ
レンダーに住むサイだ。11
月の絵のなかに住んでいる。
彼は毎日深夜0時を過ぎると
ぺらぺらの世界からこの三次
元にやってくる。
 サイモンの大きさは、太っ
た大人の猫ほどしかない。
 サイモンはニ足歩行だ。
 サイモンはイチゴラテが好
きだ。
 サイモンは野菜は食べない。
サイのくせにと僕が笑うと、
彼はそのたび顔を真っ赤にし
て、そのへんの棚なんかを角
で突いたりする。そのたび僕
は、冗談を真に受けたりする
なよ、と言って彼をなだめな
くてはいけない。

 サイモンとは、僕の家のカ
レンダーに住むサイだ。11
月の絵のなかに住んでいる。
 僕は最近そわそわして落ち
着かない。もうすぐ11月が
終わるからだ。

「ねえサイモン」と僕は言っ
た。
「なんだい」と、イチゴラテ
と一緒にだしてやったしょう
がクッキーをぽりぽりかじり
ながらサイモンが聞いた。

「君は11月が終わってしま
ったらどうするんだい?」

 彼はからだをひねってカレ
ンダーを眺めた(サイモンは
カレンダーを背にして、テー
ブルについていた。テレビを
正面から観るためだ)。それ
から遠くを見つめるような表
情をして、まだカップに2セ
ンチほど残っていたぬるまっ
たラテを一気にあおった。眉
間にシワを寄せてすこしけだ
るそうな、大人っぽい表情だ。
けれど僕は知っている。いく
ら大人ぶった顔をしても、彼
が飲んでいるものは『イチゴ
ラテ』なのだ。

「11月も終わるな」とサイ
モンは言って、お皿に残った
最後のしょうがクッキーに手
をのばす。「そしたら俺はサ
バンナにでも帰るよ」
 すてきな考えだった。けれ
ど僕はそう言ってはやれなか
った。ただ黙って頷いた。
 サバンナで暮らすには、サ
イモンはすこし小さすぎる。
それに一体どのようにして帰
るつもりなのだろう?

「心配するなよ」とサイモン
は言った。きっと僕の考えな
んかお見通しだったのだ。
「俺には仲間だっているんだ
ぜ。俺たちには俺たちのルー
トがある。無事サバンナに帰
れるさ」

 11月が終わった。午前0
時をまわってサイモンは現れ
なくなった。彼は無事仲間と
会えただろうか。サバンナに
帰れただろうか? 僕は無償
に悲しくなって、拳をぎゅっ
と握る。そして僕は誓う。い
まから何年経ったって、僕は
今年の11月を忘れないと。
サイモンのことを決して忘れ
たりしないと。
 途方もなく悲しい気持ちを
押し殺しながらテレビを見て
いると、僕のうしろで空気が
揺れた。
 はっとして振り向く。そこ
には12月のカレンダーに住
む、シロクマのポーラが二本
の足で立っていた。「イチゴ
ラテいただけるかしら?」





 サイモン/Fin.




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