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ショートコント3
星を渡るパンプス





 彼女が、新しい靴をはいて
いる。昨日僕がプレゼントし
たものだ。エナメル素材の、
真っ赤な靴。イギリスから来
た、真っ赤な靴だ。かかとは
木で出来ていて、10センチ
以上の高さがある。それをは
くと、僕らの距離はなんと1
0センチ以上も近くなる。彼
女は、僕より15センチも背
が低いのだ。
 真っ赤なそれをはいた彼女
は、地球がうっかり逆回転し
てしまいそうなくらいにチャ
ーミングだった。赤い靴、細
くてかたちのいい足首。もう
後戻りはできないくらいに、
もうどうしようもないくらい
に、好きだと思った。

 彼女がそのパンプスをはけ
ば、今夜の空で清く尊く輝く
星たちは、みんなこぞって足
場になろうとするだろう。そ
うして夜空の果てまでもつづ
くミルキー・ウェイを、彼女
は足取り軽く渡っていくのだ。
 美しい君よ、可憐で華やか
な君よ、と僕は夜空を見上げ
て呼びかける。ずいぶん遠く
離れてしまったな、と。
 すると彼女はちょっとびっ
くりするくらいすてきに微笑
むだろう。僕にはわかる。

「そんなの、おそるるにたり
ないことでしょう」と。

 それで僕にはもう苦く笑う
しか術はなくなってしまう。
なぜなら、僕は彼女にどうし
ようもなく惚れているのだ。
べたべたに、愛しているのだ
から。



 そんな取り留めのない想像
をしながら黙ってしまった僕
に、彼女は頬を膨らます。

「なに考えていたの?」と彼
女は聞く。わたしの話も聞か
ずに、と。それで僕は曖昧に
笑ってはぐらかす。
 だって今日は、と言い訳に
もならない言い訳が、口元か
らこぼれ落ちた。

「だって今日は、星が綺麗だ
からさ」、と。





 星を渡るパンプス/Fin.
 title by/カカリア




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