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暁の追放
・17万打記念
・殺し合いED






彼は呪うように空を見ていた。
曇天。
まさに今の状況に相応しい。
この狭い袋小路の中で、追い詰められた鼠の色だ。
相手は破落戸でもなければ雇い主の敵対勢力でもなく、軍隊だった。
アキラ自身を狙っているのは明白である。
まさか依頼をこなしている最中を横から介入してこられるとは思わなかった。
どちらにしても気づかなかった己のミスには違いない。
近いのは死か。
だがそれはできない。
改めて刀を握りなおし、飛び出してきた一人目を斬る。
唯一、相手の弱点を上げるとすれば、アキラを殺せないことだ。
必ずためらう。
そこを狙うしかない。
ふたり、さんにんを斬り倒し、その路地の連中を一掃したところで、後方の支援部隊らしき連中のほうからけたたましい笛の音がした。
仲間でも呼ぶのだろう。
きりがない、とアキラは笑う。
誰かを追いかけていたら、命を賭した戦いにすっかりのめり込んでいる己がいた。
彼は感情のまま叫んだ。
後方部隊の連中は戦うすべを持たないらしい。
一歩後ずさったところを駆けて追いかけようとした、その襟首が、いきなり掴まれた。
状況を把握するまもなく建物の中へ引きずり込まれる。
首輪を掴まれているから息もままならない。
そのまま建物をいくつか通り過ぎ、やっと闖入者は止まった。
モノを扱うようにアキラを道端へ放り投げた男は、忌々しそうに外を見ている。



「噛みつく相手を考えんのか、貴様は」



シキ。
そう意識した瞬間、噴き出しかけた怒りを何とか抑える。
ここで騒ぎを起こしたら区画ごと囲まれ、この男と心中だ。



「なんでここにいる」



唯一、絞り出すように聞いた。
シキはその問いかけには答えなかった。
ただ、周囲を見て、言った。



「無理そうだな」



酷く冷静な声音だった。
それがますますアキラの神経を逆なでする。



「可哀想に、アンタまで巻き添えか」
「構わん」



刀を抜いたシキは、よく斬りあう際に見せる笑みを浮かべている。
勝手にすればいい。
アキラはそう思っていた。
どうせこの男は死なないのだから、囮にここを離れてもいいだろう。
しかしシキの手に握られていた鞘は、強かにアキラの頬を打った。



「立て戯け。貴様の蒔いた種だろう」
「…ならアンタは逃げればいいだろ」
「この俺に逃げろというか。余程腕が立つと見える」



嘲笑が降ってくる。
どうしてこう、運のない日は本当に運がないのか。
アキラはそれを嘆きながら、立ち上がりざま抜身の刀をシキの喉元にあてがった。



「斬られて文句を言うなよ」



シキは笑っただけだった。
アキラの脇腹の位置で止められた刃先が、引かれる。
そして、アキラに背中を見せた。
今なら斬れるだろう。
そんな真似はしない。
自力で追い詰めて、手にかけなければ。



「これが終わったらまた相手をしてやる」



何度やっても同じだろうが、とシキは言う。
アキラはそんなシキをせせら笑った。



「それが遺言になるかもしれないぞ、アンタの」



無駄口を叩いているそばから無数の気配が寄ってくる。
すべてはこれを片付けてからだ。
二人は笑いながら、背中合わせに刀を構える。
不思議なことに、二人の笑みはよく似通っていた。









暁の追放






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あきゅろす。
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