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その傷は癒えるのか
・17万打記念
・ED3






ここはどこだろう。
狭い。
息が詰まる。
音もなく、暗闇だ。
寒いような暑いような。
兎に角、よくわからない。
アキラは気が付いたらそういう場所にいた。
ここに至る前まで何をしていたか、思い出せない。
痛いところはなかった。
頭もくらくらしない。
体の状態は。
そこまで考えて、一人笑う。
こう暗くては、血を抜かれたかどうかわからない。



「困ったな」



アキラは一人こぼした。
これではきっとだれも迎えに来てくれない。



時間が分からないということほど厄介なことはない。
暗闇の中で、もう随分過ごしているように思える。
それでも誰かが来るどころか、何の変化もないのだからたまらない。
アキラは膝を抱えるような体勢のまま、ぼんやり眼を動かす。
やっと暗闇に慣れてきたのか、なんとなくではあるがこの狭いものが何かが分かった。
木だ。
木でできている。
大きさと形からして桶か樽、だろうか。
あの城に、そんなものは無かった筈だ。
ではやはり浚われたか。
記憶にないけれど。
アキラはふう、と息をついた。
一人ぼっちのまま、ここで死ぬのだけは御免被りたい。
どういう風に死にたいか、それは理想があるのだ。
それをなるべく全うしたかった。
あの雨の日から、あまりにすべてが狂ってきてしまったから。



シキは。
シキはアキラの不在に気づくだろう。
それを救うかどうかは別として。
彼にとって唯一の弱点はアキラだ。
今まで何かしら理由をつけて飼ってきたけれども、これで捨てられるなら万々歳だろう。



「…そうなるかもな」



アキラは笑った。
笑いながら、少し泣いた。



最後はシキと死ぬと決めていたのだ。
現状から言って叶う夢ではなさそうだけれど、シキがああなってしまった責任は自分にある。
後悔こそすれ、まだ謝っていない。
だから最期の瞬間に、謝りたかった。
きっとシキは聞いてくれないだろう。
或いは、今更、と嘲笑う。
謝罪も自己満足なのだ。
もう救われたいだけ。
情けない嗚咽と涙ばかりが、何もない暗闇に満ちていった。



時間の判らない暗闇の中で、思ったことがある。
シキに触れたい。
彼の手は大きい。
撫でられると嬉しい。
打たれたら痛いし、悲しい。
しかしそこに在るだけで、救われてはいなかったか。
声も涙も枯れてしまったアキラは、己の手を見た。
細くて、頼りない手だ。
この手は、支えになっていない。



天から降り注ぐ光は、唐突にアキラを照らした。
綺麗に切り取られた蓋の向こう側から、見知った顔の連中が口々に何事か声をかけてくる。
そこにシキはいなかった。



やっとシキに会えたのは、担架のようなもので担ぎ出される最中だった。
アキラは何か言おうとしたけれども、異様に喉が渇いて声が出ない。
それでもやっとの思いで伸ばした手を、彼の手が掴んだ。



「馬鹿が」



いつものように、シキは言う。
その彼の顔が、泣き出しそうに見えた。
彼は泣けないのだ。
だから、というわけではないだろう。
枯れていたはずの涙が、次から次と壊れたようにあふれ出した。












その傷は癒えるのか





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あきゅろす。
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