[携帯モード] [URL送信]


先走った幻想でした
・17万打記念
・ED2






こどもがほしい、とこぼされた言葉に、その部屋にいた男たちは皆過剰とも思える反応を示した。
この国を総べる男は、外見こそ若いものの正真正銘中身まで若いというわけではない。
少なくとも30は越えている。
だからこそ、今後国を運営していくうえで課題となることはひとつ。
世継ぎだった。
女という点では準備に事欠かないけれども、男はそこまで女が好きではないらしい。
抱けないわけではないが、好き好んではしない、といったところか。
そもそも彼に釣り合う女となると、数が少ないのである。
というより、いそうな気がしない。



「子供ですか」



彼の一番の側近である親衛隊長は、普段通りの鉄面皮で返した。



「俺ももうこの年だ。この国はそう長くは続かんだろうが、考えねばな」
「貴方のご子息ならば、恐らくあらゆる呪いを引き受けて生まれるのでしょうね」
「そうだな。構うまい、俺の子には間違いがないのだ。少しは親らしく愛情を注いでやらねばらなんだろう」



何が面白いのか、彼は笑った。
作業を続けながら聞き耳を立てる部下たちは気が気ではない。
誰がどう見ても明らかであるように、親衛隊長は総帥に懸想している。
そして総帥自身、満更では無かった筈だ。
何しろ二人の関係は国中の公然の秘密のような扱いを受けている。
誰がどう見ても、二人は想い合っていた。
それを全否定して子供、となると、怖い。
誰かが非常に怖い。



「閣下に見合うだけの女を探すのは容易ではないでしょうが、お待ちいただけますか」



機械的に親衛隊長は言う。
部下たちは、恐ろしさのあまり一部ペンを落としそうになった。
総帥閣下は知らないのだ。
彼がどれほど荒れるのか。



「…何を言っている」
「私が直接見たほうが早いでしょう。貴方に見合う女がどこにいるか、皆目見当もつきませんが」
「話を聞け」



総帥は相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
しかし、先程までとは打って変わって、その異常なまでの存在感と殺気を放ち始めていた。
対して親衛隊長も、冷めた眼差しで総帥を見る。
一触即発の状況下、黙々と仕事をするしかない部下たちが、何らかの天の助けを願いだすころ、沈黙を破るように総帥は真顔で言った。



「お前、俺の子を産め」



総帥閣下は時を止める力すらあるらしい。
思わず部下たちは各々の筆記用具を置き、固唾を飲んで二人を見た。
親衛隊長は、二の句が継げないようだった。
しかし暫くすると、拳を戦かせて言った。



「産めるものなら、もう産んでおります」
「俺は真剣に言っている」



それでも親衛隊長の怒りは収まらないようだった。
今まで見せたこともないような目で総帥を睨む。
しかしそれも長くはもたなかった。
やがて彼は肩から力を抜き、深く息をついた。
それから、呆れたような口調で言った。



「…閣下、冗談が過ぎます」
「お前との子ならきっと、愛せるだろう」
「……馬鹿言うな」



そんなことを小声で言い合いながら、二人は去って行った。
きっとこの後二人は監査に行く予定すべてをすっぽかして私邸に戻られるに違いない。
うっかり執務室から近かったばっかりにとばっちりを食らった人事院所属の兵たちは、心底疲れ切った表情を浮かべて、机に突っ伏した。















先走った幻想でした





[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!