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花と風のできごころ
・17万打記念
・学生パロディ





桜を見に行こうと起き抜けに提案したのはどちらだったか。
気が付いたら、酒とつまみだけを持って電車に飛び乗っていた。
今日はよく晴れている。
平日だから誰もいないだろうとシキは言うが、はたして。



「すごいな」



穴場を知っているといったのはシキだった。
彼の言う穴場だから、きっと本当に静かな場所なのだろう。
なんとなくそう思っていたアキラではあったけれども、まさかここまで誰もいないとは予想だにしなかった。



「こんな場所があるんだな」



山の中にぽっかり何もない空間があった。
周囲を桜に囲まれたそこは、確かに誰も来そうにない。
ただ問題があるとすれば、ここが私有地らしいということだ。
見つかったら困る。
シキは、さして気にしていないようだったが。



「飲め」



そう言いながら、彼は一本ビールを呷る。
前々から思っていたことではあるが、この男笊らしい。
肴も食わずに一本開けてしまった。
まあその点については、比喩ではなく正真正銘持ちきれないほど酒を買い込んだため、問題はない。




「よく知ってるな、こんな山の中で」
「昔来たことがあるだけだ」
「へえ」
「妬くな」
「妬いてない」



日はまだまだ高い。
しかし街の喧騒もここまでは届かず、時折思い出したようにする会話と鳥の囀り位しか音がなかった。



「いいな、こういうのも」



普段なら今頃授業だなんだと忙しない。
それから解放されただけでも、非常に楽だ。



「そうだろう」



シキは笑っている。
笑いながら、さりげなく腰に手が回る。
アキラは普段なら振り払うところであるが、真っ昼間から酒を飲んでいるうえ、つまみが少ない影響なのだろうか、酒がまわってしまっていた。
だからつい、反応が遅れる。
引かれるまま、体を凭れかけた。
シキの体はアキラよりも一回り大きく、こういう時はありがたい。



「寝ても構わんのだぞ?」
「寝たらなんかするだろ、アンタ」



シキは肯定も否定もしなかった。
ただ笑って、額に口づける。
初めてそんなことをされた。
思わず目を見開いてシキを見ても、彼は何事もなかったかのように酒を呷っている。
幻、というわけではないだろう。
感触はしっかりある。
アキラはしばらく硬直し、結局体から力を抜いた。
何をしたか、問うのも野暮というものだろう。
心底嫌だと思わなかったのも、酒が回っているのもあるが、なによりこの風景とシキが美しく見えるせいだ。
そう、彼は己の中で結論付けた。



「綺麗だ」



口をついて出た言葉が、何に向けられたものだったかはアキラにもわからない。
ただシキは、またアキラを見て、顔を寄せる。
視界が塞がれる直前、垣間見た満開の桜の花びらは、風に乗って散って行った。














花と風のできごころ



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