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日々は儚く過ぎていく
・17万打記念
・学生パロディ







別に心底知りたいわけではない。
きまぐれに、周囲の女たちが喧しく噂する真相を確認したくなっただけだ。


そう己に言い聞かせて、アキラは傍らの男を見た。
今日も憎たらしいほど涼やかな顔である。
この蒸し暑い講堂にあっても、それが崩れることはない。
どういうわけか冷房の壊れているこの部屋は天然のサウナと化していた。
周囲の者はぐったりしているか、何かを団扇の代わりとして必死に仰いでいるような有様である。
それなのにこの男は汗ひとつかかない。
いったいどういう人体構造をしているのか、そちらが気になってしまう。
しかしまあ、ここまで崩れないからこそいろいろな噂が飛び交うのだろう。
少なくともアキラが聞いた話では、シキの出自やら家族やら実家やらが好き勝手に話されていた。
アキラはそういう状態はあまり好きではない。
何事も、イメージで片づけてしまったら事の本質は見えないだろう。
特に女に声を大にして言いたいこともある。
こいつはまともな人間ではないということ。
ついでに少々頭が緩いこと。
そして、意外にも繊細なことを。



「なんだ」



いきなり声をかけられて、思わずアキラの喉から妙な声が漏れた。
シキはこちらに瞬間だけ視線を巡らせ、またノートに何事か記していく。
幸いこの授業は緩い。
今も、何を言っているのか判らないような講義が垂れ流されているから、小声なら問題ないだろう。
そう勝手に結論付けて、アキラは尋ねた。



「聞きたいことがある」
「ほう」
「…別に嫌なら答えなくていいからな」
「授業が分からないか?」



それもあるが。
アキラが言い返せないでいると、シキは意地の悪そうな笑みを浮かべた。
ここを、まさにこの瞬間を女たちに見せてやりたい。
そうすれば妙な幻想も消えるだろうに。



「アンタの家のこと」
「やっと行くつもりになったか。いつになったら紹介できるかと考えていたところでな」
「違う」



どうしてこう、この男は話が飛躍するのだろう。
実家には女を連れて行けというに。



「アンタの家、いろんな噂が流れてるぞ」
「だからどうした」
「……だからちょっと、…気になった」
「行けばすむ話だ」
「行きたくない」



拒んだらいつものようにシキは長々演説を始めた。
毎回毎回いう文句は決まっている。
しきたりは関係ないとか、新妻がどうとか、実家になんたら。
げんなりしながらアキラは視線をシキから外した。
この演説、終わるまで平均30分はかかるのである。
相手にしていられない。



「お前の部屋があるな」



だがいきなりシキは、話題を変えてきた。
珍しいことである。
一瞬何を言われたかアキラは判らなかった。
そんな彼にかまわず、シキは続ける。



「あれを大量に増設すればいい。家族は特に変わりはない」
「…もっと具体的に言えよ」
「ならば俺からもお前に聞こうか」
「籍は入れないからな」
「俺の噂をなぜお前が不快に思う」



勝手に噂が広まるのが嫌いなだけで。
そう答えようと思ったものの、アキラはとっさに言葉が出なかった。
他に理由はないはずだ。
シキはそんな彼を見、笑っている。



「噂が」



やっとアキラは言葉を紡いだ。
授業の終わりを告げる鐘の音と、ほかの学生たちのざわめきを遠くに聞きながら、やっとの思いで答える。



「嫌いなだけだ」



シキはよくアキラの頭をぐしゃぐしゃかき回す。
それは今回も例にもれず、よく言えたと、労うように撫でるその手が鬱陶しくて、アキラはそっぽを向いた。










日々は儚く過ぎていく




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